崩壊
夏休みが終わり、小学校への登校が始まった。ひろゆきは転校生となった。
皆に好奇な目でみられ、人見知りのひろゆきにとっては苦痛だった。そんな状況を打破してくれたのはたかしだった。
正直同じクラスと聞いた時はほっとした。
始業式の後、教室に入ると担任に席を案内された。皆が夏休みの思い出話しをしているなかポツンと席に座っていると、
「こいつ、めっちゃサッカー上手いよ。」
たかしがひろゆきの背中を叩きながら言った。その言葉を合図に皆がひろゆき、いや、たかしの元に集まった。
(たかしは学校でも人気者なんだな)
少し羨ましかった。同時にそんなたかしと友達という事が誇らしかった。
お陰手学校にも馴染む事が出来た。
一方、かずきはというとすっかり引きこもりがちになり、保育園には通わず毎日施設で過ごしていた。
一緒にいる時間が減ったせいか、以前にも増して不安定になってしまった。
10月に入った頃、事件が起こった。
それは、あまり突然だった。
「ひろ君。かず君。お父さんが来たよ。」
学校から帰り、部屋に居ると職員がそう言って呼びに来た。
(迎えだ…)
「諦めちゃだめ。」と言う言葉は本当だった。ここを出ていく寂しさもあったが、出られるという嬉しさもあった。それと、母ではなく父という事も複雑な心境にさせた。
案内された部屋に入るとそこには父が座っていた。
久々に見る父は少し痩せただろうか、疲れた雰囲気だった。
「元気だったか?」
その問いかけに怒りを感じた。
「何だよ今更。」
本当は嬉しい気持ちもあった。絶対に迎えに来ないと思っていた父がこうして来てくれたのだ。ただ、許せなかった。僕達がこの数ヶ月どういう気持ちですごしてきたか。かずきがどれ程苦しんでいたか何も知らず「元気だったか?」という問いがあまりに呑気に思えたのだ。
鋭い視線を向けるひろゆきに
「悪かった。」
と父は視線を落とした。
その後、親子水入らずで暫く話しをした。
不安で眠れなかったこと。
友達が出来たこと。
サッカーが上手いと誉められたこと。
かずきに寂しい思いをさせたこと。
泣いたり、笑ったり、感情が目まぐるしく入れ替わった。
父はそんなはなしを「うん、うん」といった感じできいていた。
ひとしきり話しを終えたところで僕達は部屋に戻された。
もしかすると、会いに来ただけなのかと不安になった。
落ち着かないで居ると、父と職員が部屋に現れた。
「ひろ君。」
僕だけが部屋の外に連れられた。
「何?」
何だか嫌な予感がする。
「落ち着いて聞いてね。」
言いづらそうな様子を見て全てを察した。
「帰れないんだね。」
明るくつとめた。本当は辛い。泣き出しそうだった。期待した分落胆が大きい。
しかし、職員が口にしたのは想定外の言葉だった。
「かず君はお父さんと帰る事になったの。」
頭が真っ白になった。もう、感情を制御する事は出来ない。
声を上げて泣いた。何事かと皆が出てきた。まさやや、たかしも居る。恥ずかしい姿なのだが、その時は恥ずかしいなんて感じなかった。
(本当に捨てられたんだ…)




