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夏(仮)  作者: ふゆか
プロローグ
2/38

諦めない

僕達が父に連れられやって来たのは児童養護施設。

ここがどういう場所かは分かっているつもりだ。

親に捨てられた子ども達が集まる場所――――


ひろゆきとかずきは一旦ここの子どもたちとは別の建物に住まわされた。おそらくは慣れるまでの仮住まいといったところであろう。


「ひろ君。もっとしっかり食べないと。」


一向に食事が進まないひろゆきを職員の小野が優しく促した。

ここに連れてこられて最初に会ったのがこの小野である。


「いらない…。」


そう言うと手に持っていた箸を放り投げベッドに飛び込んだ。


「そんなこと言わず、ほらこっちおいで。」


ここに来て数日、夜はまともに寝られず食欲もわかない。弟のかずきも初日こそ家にはないオモチャの量にはしゃいでいたが、事態を理解してきたのか突然泣き出したり、暴れだしたりする様になった。


(自分がしっかりしなくては…)


そんなふうに思うが、それどころではない。


(母さんなんで…)


様々な思いが頭を廻る。


食べ物の好き嫌いをしたから…。宿題をしないから…。夜更かししたから…。洗濯物を取り込むのを忘れたから…。喧嘩したから…。


考えれば考える程、母に捨てられる理由が浮かんでくる。


(あの時ああしておけば…)


そんな事ばかり考えていた。


「さあ。ちゃんと食べよう。お父さんが迎えに来たとき痩せてたら悲しむよ。」


「ウソつけ。」


思わず大声を上げてしまった。同時に堪えていた涙が溢れだした。

父がもう来ないことは分かっていた。そして、僕が迎えに来て欲しいのは母なのだ。


大きな声に驚いたのか、僕につられたのかは分からないがかずきも泣き出してしまった。


小野がこちらに近づいてくる。

怒られるのだと思った。


「大丈夫よ。」


そう言いながら小野はひろゆきを抱きしめた。


懐かしい感覚に涙が更に加速する。


「未来のことは分からないけど、諦めちゃだめ。」


「ごめんなさい…。」


何とか絞り出した声は、小野に届いただろうか。


その夜、久々にぐっすりと眠れた。


理由は分からない。

安心したのか。

諦めたのか。


ただ、この数日間とは明らかに何かが変わったきがした。



7月の末に児童養護施設にやって来たのだが、8月も下旬に差し掛かってきた。


やはり、父も母も迎えに来なかった。


‘あの日’以来夜はしっかり眠り、食事も摂れるようになった。


「諦めちゃだめ。」


小野のあの言葉に救われた。


‘仮住まい’を出て他の子ども達との共同生活も始まった。友達も出来た。人見知りの激しいひろゆきはなかなか馴染む事が出来なかったが、職員に促され皆のしていたサッカーに参加した。


弱小チームとは言え、4年間サッカーをしていたひろゆきはどちらかと言えば上手い方であった。それを機に徐々に馴染み始めたのだった。


「ひろ、サッカーしよう。」


2歳下のまさやが呼びに来た。


「おう。」


跳び跳ねる様に立ち上がるり部屋を出ようとするとかずきがひろゆきのズボンを引っ張った。


「いや!」


顔をくしゃくしゃにしながら引き留める。

かずきはまだここに馴染めていない。友達も出来ず、話し相手はひろゆきか職員しかいない状態だ。


ひろゆきはかずきの手を振りほどくように部屋を出た。

この頃、かずきが重荷になっていた。皆と遊ぼうと思えばいつも引き留められ、部屋で2人の際は突然泣き出したり手がやける。


たまに冷たく当たってしまうが、それでも可愛い弟にはかわりない。ふとした時に罪悪感に苛まれてしまう。


「あー疲れた。」


まさやと隣り合ってベンチに座り込んだ。


「ひろって本当にサッカー上手いよな。サッカー選手なれるんじゃない。」


「絶対むりだって。」


弱小チームに居た僕は自分より上手い人が沢山いるのを知っている。


「なれるって。たかしの次位に上手いじゃん。」


一番じゃないのか…。と少しがっかりしたが、同学年のたかしは確かに上手い。パスを出せば得点になると言っても過言ではない。そんなたかしを尊敬しつつも、嫉妬もしていた。


「なになに?俺の事誉めてた?」


そう言いながらひろゆきとまさやの間に割り込んできた。


「誉めてないよ。」


まさやとひろゆきが同時に言う。

それが可笑しくて3人で大笑いした。


少しずつ‘ここ’が思っていた程悪いところではないと感じていた。皆、それぞれに悩みや心に傷があるのだろう。それでも、こうやって皆で笑い合える。それだけで毎日が充実していた。

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