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夏(仮)  作者: ふゆか
過去
26/38

未定

「あっ、ごめん。」


その反応で十分だと思った。もう、敢えて言葉で聞きたくなかった。


「小学校の頃噂なってたじゃん。」


落胆を悟られないよう、必死に明るく努めた。そんな自分が惨めで格好悪い。


あかりが口を真一文字にして視線を落とす。「聞かなければ良かった」そんな風に後悔していると、


「噂は噂だよ。」


少し不機嫌そうにぼそりと言う。それが怒っているのか、照れ隠しなのか分からない。


「軽い女って思ってる?」


勢いよく体を起こすあかり。あかりが離れて行ったひろゆきの左腕が急激に冷える。


「何で?そんな事思ってないよ。」


焦るひろゆきにあかりの冷ややかな視線が突き刺さる。何故これ程にあかりが不機嫌なのか見当がつかない。


「分かんないかな?」


もはやあかりの言っている事が理解出来なかった。兎に角機嫌を直さなければと必死に頭を巡らせるが解決策が出てこない。そんなひろゆきの姿を見たありがため息をついた。


「鈍感なんだね。」


あかりが言葉を発する度に混乱の渦へと引き込まれる。


「えっと…」


思わず出た言葉が‘これ’だった。


「もう。」


そう言うとあかりが笑い始める。


「何?」


思考が追い付かず混乱の余り大きな声を上げてしまった。それを見て更に笑うあかり。


「まあ、いいや。ファミレスで見たときはひろ変わっちゃったなって寂しかったけど、ひろはひろだね。」


その笑顔はひろゆきが知っているあかりの本当の笑顔だった。何だかよく分からないがそんな姿を見てほっとした。


あかりの笑い声が止むと、再び二人を沈黙が包む。まだ空は星空が広がっている。遠くの方から新聞配達のバイクの音が聞こえてきた。先程まではこの世界に二人きりの様な気がしていたが急に現実に引き戻される。


「そろそろ帰る?」


本当はもっと一緒に居たかったが、思いとは裏腹な言葉が出た。あかりは微動だにせずぼんやりとしている。聞こえなかったのかと思いもう一度言うと、


「帰りたいの?」


と、何だか寂しそうにこっちを向いた。その姿があまりにも愛しく見えた。好きだと思った。


「そうじゃないけど。」


「じゃあ、一緒に居よ。」


同い年とは思えない程しっかり者で大人びていた印象だったが、今のあかりは凄く幼く見えた。


二人は短い会話と長い沈黙を繰り返しながら過ごした。やがて空がうっすらと明るくなる。


「ありがとう。帰ろうか。」


唐突に二人きりの時間の終わりが告げられた。


「俺の方こそありがとう。」


あかりのように「帰りたいの?」と聞きたい気持ちを抑え立ち上がる。


「家近くでしょ。送ろうか?」


「大丈夫。一人で帰れる。」


気のせいかもしれないが、一瞬あかりの表情が曇った様に見えた。


公園の門を出ると二人は別々の方向に向かって進みだす。ひろゆきは振り返りたい気持ちを必死に堪え前に進む。すると


「ひろ。」


静かな朝の町に響く様な高い声。待ってましたと言わんばかりの勢いで振り返るとあかりが大きく手を振っている。


「連絡頂戴ね。」


「分かった。」


今までに味わった事のない高揚感に包まれ家路についた。

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