未定
五年前、岐阜を発つ前に過去を精算したいと思い、思い出の場所を巡った。良い思い出も、悪い思い出も全てそれらが今の自分を作り上げた。それぞれの地で感謝や後悔、懐かしさを感じ最後に行き着いたのがこの施設だった。
一番の目的は小野に会い、謝罪をする事ー。
小野がまだ施設に居るかは分からない。居たとしても自分の事を覚えていないだろう。何せ多くの子ども達と対峙し、一人一人と真剣に向き合うのが小野だ。そんな中、約十五年も前に飛び出して言ったたった一人の少年を覚えてはいられないはずー。
そんな事を考えると少し寂しくなった。それでも、過去の自分にけりをつけたかった。それが自己満足だということは分かっている。
施設の目の前まで来て急に怖くなった。足が重く前に進まない。
「何やってんだ…」
思わず独り言を漏らした。
ふと施設に目をやると窓から一人の女性が見えた。はっきりとは分からなかったが、それが小野だということが分かった。
涙が頬を伝う。
「すいませんでした。」
小野に届かない事は分かっている。それでも思わず口をついた。
結局そこから一歩も踏み出せず施設を後にした。
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それ以来ずっと胸の奥に後悔として引っ掛かっていたが、あかりのお陰で遅くはなってしまったがこうして施設を訪れることが出来た。感謝してもしきれない。
小野が二人の前に淹れてきた麦茶を差し出す。
「懐かしい。」
あかりの声が弾む。何処にでもある、何の変哲もない麦茶。でも、ここでは何もかもが懐かしく見える気持ちはひろゆきも同じだ。
二人の向かいに腰掛け、小野が交互に二人の顔を見る。その顔はとても穏やかで優しさに溢れていた。
「当時はすみませんでした。」
深々と頭を下げるひろゆき。小野の顔を見るのが怖くなってなかなか頭を上げられずにいると、
「いいのよ。それはもう五年前に受け取ったから。」
「えっ」と声を上げそうになったが、それよりも早くあかりが声を上げた。
「どういうこと?ひろ二十年ぶりって言ってなかった?」
「いや…」
あかりの目が「嘘つき」と言っている。
「あかりちゃん。ひろくんは嘘は言ってないわよ。」
「でも、二十年ぶりだねって話してたのに、五年前に来てたんでしょ。」
「違うの。ひろくんは来たけど、来てないの。」
「うふ」と上品に小野が笑った。
「何?どういうこと?」
あかりの視線がひろゆきと小野を行ったり来たりする。
「気づいてたんですか。」
「ええ。」
「すいません。」
あの時、あと一歩勇気を踏み出せていればこの五年間はまた違ったものになっていたのかもしれないと後悔した。
「でも、良かった。あの時見たひろくんは随分と思い詰めていたように見えたから。こうしてまた会えて嬉しいわ。」
優しくされる程胸が締め付けられた。
「もう。二人して何なの。」
どんどんと不機嫌になるあかり。これ以上はまずいと思い五年前の事を話した。
「そっか。そんな事があったんだ。」




