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『月曜の歌』  作者: こうた
第一話 再生数の向こう側

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第六話 山が拒むもの

通知は数秒後、何事もなかったように消えた。


悠真はスマートフォンを何度も確認する。


予定表にも、通知履歴にも「待っています」という文字は残っていない。


スクリーンショットを撮ろうとしたが、その時にはすでに画面は通常のホーム画面へ戻っていた。


「……また消えた。」


証拠だけが残らない。


白鳴隧道に関わるものは、まるで自分の存在を記録されることを嫌っているようだった。



---


翌朝。


悠真は配信用の機材を点検していた。


4Kカメラ。


暗視カメラ。


集音マイク。


ICレコーダー。


予備バッテリー。


「今回は絶対に撮る。」


そう呟いた瞬間、棚の上に置いてあったICレコーダーが床へ落ちた。


カラン。


電池も入れていないはずなのに、液晶だけが点灯する。


表示された録音時間は「00:03」。


勝手に再生が始まった。


ザーッ……。


激しいノイズ。


その奥から、かすかに女の歌声が聞こえる。


悠真は耳を近づけた。


しかし次の瞬間、音は途切れ、画面には


「データが破損しています」


と表示された。


もう一度再生しても、ノイズすら流れない。


「今のは……。」


胸騒ぎだけが残った。



---


午後。


白鳴隧道へ向かうため、車の整備を終えた悠真はガソリンスタンドへ立ち寄った。


給油を終え、山道へ向かおうとしたその時。


突然、エンジンが止まった。


セルを回しても動かない。


昨日まで何の異常もなかった車だ。


店員が首をかしげる。


「バッテリーも正常ですね。」


「故障ですか?」


「いや……原因が分かりません。」


三十分後。


レッカーを呼ぼうと決めた瞬間、車は何事もなかったようにエンジンがかかった。


店員も不思議そうに笑う。


「こんなこと初めてです。」


悠真は苦笑いを返したが、心の中では別の考えが浮かんでいた。


――行くな、と言われている。



---


その日の夕方。


榊真琴からメッセージが届く。


> 「まだ間に合います。やめてください。」




悠真は短く返信する。


> 「理由を知りたい。」




数分後、返信が来た。


> 「では、明日会いましょう。」




> 「兄の遺品を見せます。」





---


夜。


雨が降り始めた。


窓ガラスを打つ雨音を聞きながら、悠真は編集していた動画を見返していた。


トンネルの映像。


何度見ても、少女は映っている。


だが、新たな異変に気付く。


少女の口元だった。


映像を最大まで拡大する。


最初は閉じていた唇が、フレームが進むたびに少しずつ開いている。


まるで歌い始める直前のように。


悠真は無意識にイヤホンを耳へ当てた。


「何か聞こえるかもしれない。」


再生ボタンを押す。


風の音。


自分の足音。


何もない。


そのはずだった。


最後の一秒。


ノイズの隙間から、息を吸う音だけが入っていた。


「……っ!」


悠真は慌ててイヤホンを外す。


動画を再生し直す。


今度は何も入っていない。


息を吸う音は消えていた。


録音されていたはずの音まで、消えてしまった。



---


深夜一時。


眠れずにベランダへ出る。


住宅街は静まり返り、遠くで犬が一度だけ吠えた。


その直後だった。


山の方角から、風に乗って何かが聞こえた。


微かに。


本当に微かに。


女性の澄んだ歌声。


距離にすれば何十キロも離れているはずなのに、不思議と耳元で歌われているようにはっきり聞こえた。


歌詞は分からない。


旋律だけが心へ入り込んでくる。


懐かしい。


悲しい。


それでいて、恐ろしい。


悠真は無意識に一歩前へ出る。


その瞬間、背後から女性の声がした。


「まだ、聞いてはいけません。」


振り返る。


誰もいない。


しかし、床には雨で濡れた小さな足跡が一つだけ残されていた。


それは部屋の中へ向かって、ゆっくりと続いていた。


――第七話「兄が遺した音」へ続く。

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