第三十五話 月曜
すべてが収束したあとに残ったのは、「月曜」という概念だけだった。
音ではない。
時間でもない。
ただ、世界が自分を再起動するための“基準日”。
それが静かに、確かに存在していた。
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悠真は立っていた。
しかし自分が立っているのか、世界が自分をそこに配置しているのか分からない。
真琴も、美紗も、もう“同じ場所”にはいない。
それでも、消えたという感覚だけはなかった。
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空間には、薄い朝の光が差している。
山は元の形に戻っているように見える。
廃道も坑道も、御歌殿もない。
すべてが最初から存在しなかったように整えられている。
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ただ一つだけ違う。
音がある。
それも、歌ではない。
月曜そのものの音。
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悠真の耳の奥で、規則的な“何か”が鳴っている。
ポンでもなく、歌でもなく、意味でもない。
ただ、「始まりが繰り返されている」という感覚。
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そのとき、背後から声がした。
真琴だった。
だが声は遠い。
距離ではなく、層が違う。
「悠真さん……聞こえますか。」
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振り返ると、真琴は立っている。
しかし輪郭が薄い。
存在しているが、完全には固定されていない。
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美紗の気配もある。
どこか遠くで、静かに揺れている。
もはや一人の存在ではなく、“機能”として残っている。
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真琴が言う。
「私たち……残ったんですか。」
悠真は答えられない。
残ったのか、再配置されたのか、まだ決まっていない。
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空に、鈴の音が一度だけ鳴る。
チリン。
それは御歌殿でも、神社でもない。
世界そのものが鳴らした音だった。
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悠真は理解する。
月曜の歌は終わっていない。
終わる構造ではない。
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それは“繰り返し”だ。
壊れては再生し、
選ばれては初期化される。
その循環の中に、世界がある。
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真琴が静かに言う。
「これからも……続くんですか。」
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悠真は空を見上げる。
そこにはもう山も空も区別がない。
ただ、薄い月曜だけが広がっている。
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そして、小さく頷く。
「続く。」
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その瞬間、どこかで歌が始まる。
だがそれは、以前のような呪いではない。
悲しみでもない。
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ただ、世界が自分の存在を確かめるための音。
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月曜の歌は、もう誰かを呼ばない。
ただ、世界そのものが“続いている証明”として鳴り続ける。
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そして悠真は気づく。
自分もまた、その音の一部になっていることに。
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遠くで、美紗の声がかすかに響く。
「ありがとう。」
それは最後の言葉ではない。
最初の繰り返しだった。
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――そして物語は、月曜へ戻る。




