第三十四話 選択
世界は止まっていた。
止まっているのに、崩壊も進行も同時に存在している。
矛盾した状態のまま、“月曜の歌”だけが淡く流れている。
それはもう音ではなく、規則そのものだった。
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悠真の目の前には、無数の可能性が並んでいる。
世界が続く分岐。
誰かが消える分岐。
歌として固定される分岐。
そして、完全に終わる分岐。
どれも正しくて、どれも間違いだった。
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真琴は小さく呟く。
「これ……選べるんですか。」
悠真は答えない。
選ぶという行為そのものが、もう重すぎて言葉にならなかった。
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美紗が静かに近づく。
その存在はもはや“少女”ではない。
音と記憶の境界に立つ、均衡そのものだった。
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「あなたは最初に名前を与えた人。」
美紗はそう言う。
「だから、最後も決める。」
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悠真は目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、これまでのすべてだった。
消えた配信者。
声の墓。
御歌殿。
そして、美紗の泣き顔。
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真琴が一歩前に出る。
「待ってください。」
「それは……一人で決めるものじゃない。」
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その言葉で、空間がわずかに揺れる。
月曜の歌が、一瞬だけ弱まる。
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美紗が初めて困ったように表情を変える。
「……二人は、残れない。」
「基準は一つだけ。」
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悠真は理解する。
この世界は、複数の中心を持てない。
歌が崩れるからだ。
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沈黙。
その間にも、世界は少しずつ“書き換え”を進めている。
山の形が変わる。
坑道が消える。
社が戻る。
何もかもが再配置されていく。
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真琴は静かに笑う。
「じゃあ、簡単ですね。」
「選ばれた方が残ればいい。」
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悠真は真琴を見る。
その表情だけで、すべてを理解する。
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美紗が震える声で言う。
「それは……間違い。」
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その瞬間、月曜の歌が一段階強くなる。
選択そのものを飲み込もうとするように。
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悠真は一歩踏み出す。
そして、ようやく口を開く。
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「俺は――」
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その言葉と同時に、世界のすべてが収束する。
光も、音も、記憶も。
すべてが一つの点へ向かっていく。
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美紗が目を閉じる。
真琴が息を呑む。
そして――
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選択が確定した。
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その瞬間、月曜の歌が完成する。
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――第三十五話「月曜」へ続く。




