表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『月曜の歌』  作者: こうた
第三章 埋もれた歌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/36

第二十四話 封鎖区画

巨大な鉄の扉は、坑道の奥に静かに立っていた。


高さは四メートルほど。


表面は赤茶けた錆に覆われ、無数の引っかき傷が刻まれている。


まるで、内側から誰かが何十年も開けようとしていたような傷だった。


悠真はライトを向ける。


扉には、もう一つ文字が彫られていた。


それは錆に隠れ、今まで見えなかった。


> 昭和五十二年九月二十一日 封鎖




その下には、小さく工事責任者の名前。


大西 恒一


「この日に閉じたのか……。」


真琴は静かに頷く。


「トンネル開通の三日前です。」



---


扉の前には、古い工具が散乱していた。


スコップ。


ツルハシ。


ガス切断機。


どれも使いかけのまま放置されている。


さらに、その横には白骨化した手首が土の中から突き出ていた。


悠真は思わず息をのむ。


「遺体……。」


真琴はしゃがみ込み、慎重に周囲を照らす。


骨は一体ではなかった。


地面の下に、何人もの遺骨が埋まっている。


ヘルメットの破片。


作業服のボタン。


錆びた腕時計。


「埋めたんじゃない。」


真琴が低く言う。


「ここで亡くなって、そのまま封鎖したんです。」



---


悠真は扉へ近づく。


冷たい鉄に手を触れた瞬間――


視界が暗転した。



---


山の中。


昭和五十二年。


まだ白鳴隧道が完成する前。


工事現場では作業員たちが慌ただしく走り回っている。


「早く塞げ!」


「歌が近づいてくる!」


誰かが叫ぶ。


若い作業員が耳を押さえ、笑いながら坑道の奥へ歩いていく。


「きれいだ……。」


誰も止められない。


そのまま闇へ消えた。


次の瞬間。


地鳴り。


悲鳴。


落盤。


砂煙。


工事責任者・大西が涙を流しながら命令する。


「入口を埋めろ!」


「まだ中に人がいます!」


若い作業員が叫ぶ。


大西は首を横に振った。


「これ以上出したら山が終わる!」


重機が動く。


大量の土砂が坑道を埋めていく。


中から、助けを求める声が聞こえる。


叩く音。


泣き声。


叫び声。


そして――


そのすべてが、一つの美しい歌へ変わった。



---


「っ!」


悠真は我に返る。


膝をつき、激しく息を切らしていた。


真琴が肩を支える。


「見えたんですね。」


「……記憶だ。」


「この扉が見せた。」


悠真の手は震えていた。


「工事事故じゃない。」


「封印だった。」



---


少女は鉄扉の前に立っている。


ゆっくりと振り返り、小さく首を横へ振った。


「開けないで。」


その表情には恐怖だけではない。


罪悪感が浮かんでいた。


まるで、自分が何かを引き起こしてしまったと思い続けているようだった。


悠真は優しく問いかける。


「君は誰なんだ。」


少女は答えようとする。


唇が動く。


しかし、その瞬間。


空間中の歌が一斉に大きくなる。


少女の声だけがかき消される。


言葉を話させまいとしている。



---


突然、真琴のICレコーダーが勝手に再生を始めた。


ザーッ……。


ノイズの向こうから、男性の声。


榊恒一だった。


> 「もし、この声を聞いているなら……」




真琴の目に涙が浮かぶ。


兄の声だった。


六年前、最後に録音されたまま消えたはずの音声。


> 「歌を追うな。」




数秒の沈黙。


> 「歌を作っているものを探せ。」




さらにノイズ。


息遣い。


そして最後に。


> 「少女は……」




ブツッ。


録音はそこで切れた。


何度再生しても、その続きは流れない。



---


その直後。


巨大な鉄扉の向こうから、


ドン。


重い衝撃音が響いた。


誰かが叩いている。


もう一度。


ドン。


三度目。


ドン。


錆びた扉がわずかに震える。


真琴は青ざめる。


「中に……何かいます。」


悠真は少女を見る。


少女は泣きながら、ゆっくりとうなずいた。


「いる」のではない。


ずっと閉じ込められている。


そして四度目の衝撃。


扉の中央に、小さな亀裂が走った。


その隙間から漏れたのは、風でも光でもない。


無数の人間の歌声だった。


悠真は懐中電灯を握り直す。


この扉が開けば、封印は終わる。


だが、開かなければ少女は救えない。


二人は、人生で最も重い選択を迫られていた。


――第二十五話「少女の名前」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ