第二話 消えた投稿
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む夏の日差しで、相沢悠真は目を覚ました。
昨夜の出来事を思い返す。
黒いプロフィール画像。
「白鳴隧道へ行ってください」というメッセージ。
そして、最後にスマートフォンへ映った長い黒髪の女。
「……夢、だったのか。」
そう呟きながらスマートフォンを手に取る。
通知はゼロ。
メッセージアプリを開く。
昨夜届いていたはずのダイレクトメッセージは跡形もなく消えていた。
送受信履歴にも存在しない。
「消えた……?」
アプリの不具合だろうか。
悠真は首をかしげたが、気になったのはそれだけではなかった。
昨夜保存したはずのトンネルの写真も消えていた。
ダウンロードフォルダを探しても見つからない。
「そんなことあるか?」
代わりに残っていたのは、スクリーンショットを撮った時刻だけだった。
午前〇時十四分。
写真だけがなくなっている。
嫌な違和感が胸に残った。
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昼過ぎ。
悠真は動画編集をしながら、「白鳴隧道」という名前を改めて検索した。
昨夜よりも多くの投稿が見つかる。
どれも数日前から急激に増えていた。
「昨日、友達と歌を聞いた。」
「録音には何も入ってない。」
「歌を聞いてから耳鳴りが止まらない。」
中にはライブ配信の切り抜きもある。
配信者が突然、
「聞こえる!」
と叫び、周囲を見回す。
しかし配信の視聴者は、
「何も聞こえない。」
「演技?」
とコメントしている。
配信者だけが歌を聞いている。
動画を最後まで見た。
結局、歌声は一度も記録されていなかった。
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さらに調べるうちに、一つのアカウントが目に留まる。
投稿日時は三日前。
> 「白鳴隧道、本当に歌が聞こえた。」
「また三日後に報告します。」
その後の投稿はない。
プロフィールを開く。
最終ログインも三日前。
コメント欄には、
「大丈夫?」
「続きは?」
「ニュース見た?」
という書き込みが並んでいた。
ニュース?
悠真は検索する。
すると、小さな地方ニュースの記事が見つかった。
「山中で男性の遺体発見」
名前を見る。
SNSの投稿者と一致していた。
死因は転落事故。
発見日は――
投稿から三日後。
偶然だ。
そう思いたかった。
しかし、同じような投稿者が他にもいた。
「歌を聞いた。」
その三日後。
更新が止まる。
調べると死亡記事が出てくる。
事故。
急死。
行方不明。
死因は違う。
だが、全員が歌を聞いて三日後だった。
悠真の指先が止まる。
「……出来すぎだろ。」
背筋に冷たいものが走る。
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夕方。
気分転換にコンビニへ向かう。
住宅街を歩いていると、小学生たちが公園で歌を歌って遊んでいた。
どこにでもある童謡。
それなのに、一瞬だけ旋律が違って聞こえた。
知らない歌。
胸が締めつけられるような、美しくも悲しい旋律。
悠真は足を止める。
だが次の瞬間には、子どもたちは普通の童謡を歌っていた。
「……気のせいか。」
そう呟き歩き出す。
しかし、その中の一人の少女だけが遊ぶのをやめ、悠真をじっと見つめていた。
長い黒髪。
白いワンピース。
目が合った瞬間、少女は口元だけをゆっくりと動かした。
歌っている。
だが声は聞こえない。
次の瞬間、友達に呼ばれた少女は笑顔を見せ、何事もなかったように走り去っていった。
---
夜。
自宅へ戻った悠真は、机の上のカメラを見つめた。
「……行くしかないか。」
配信者としてではない。
一人の人間として、確かめたい。
白鳴隧道には、本当に何かがいるのか。
その時、部屋のどこからともなく、小さな音が聞こえた。
――♪
誰かが、ほんの一音だけ歌った。
悠真は勢いよく立ち上がる。
部屋には誰もいない。
窓は閉まっている。
テレビもついていない。
静寂だけが広がっていた。
だが机の上のスマートフォンには、新しい通知が一件だけ表示されていた。
> 「日曜日まで、あと五日。」
送り主の名前は、表示されていなかった。
――第三話「白鳴隧道」へ続く。




