第十八話 消えた配信者
夜が明けても、山から響いていた歌は悠真の耳から離れなかった。
聞こえているというより、頭の中に住みついている。
テレビを消しても。
窓を閉めても。
目を閉じても。
歌だけは消えない。
それでも、ひとつだけ気になることがあった。
「白鳴隧道へ行った配信者は、自分だけではない。」
もし生き残った人がいるなら。
もし何かを知っている人がいるなら。
それが呪いを止める唯一の手掛かりかもしれない。
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午前十時。
真琴とともに新聞社の資料室を訪れる。
古い新聞記事やネット記事、動画投稿サイトの記録を調べ始めた。
画面には、数年前に投稿された心霊配信の一覧が並ぶ。
その中で、一つの名前が目に留まる。
「霧島レン」
登録者数三十万人を超えていた人気配信者。
三年前、白鳴隧道でライブ配信を行ったあと、突然活動を休止。
一週間後、失踪届が提出されていた。
「見つかってないのか?」
悠真が尋ねると、真琴は首を振った。
「警察は家出として扱いました。」
「でも、家族は今でも探しています。」
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レンの最後の配信を再生する。
映像には、若い男性が笑顔で映っていた。
「今日は噂の白鳴隧道に来ています!」
今の悠真と同じような口調だった。
配信は順調に進む。
視聴者も盛り上がっている。
そして午後十一時。
レンの表情が変わった。
「……え?」
彼は急に黙り込む。
何かを聞いている。
コメント欄は流れ続ける。
> 「どうした?」
> 「フリーズ?」
> 「誰かいる?」
レンはカメラを持ったまま、トンネルの奥へ歩き始める。
誰かに呼ばれているように。
「待って……。」
そうつぶやいた瞬間、映像は突然終了していた。
その後、彼は二度と配信を行っていない。
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「おかしい。」
悠真は動画を巻き戻した。
何度も確認する。
レンは最後に、
「待って。」
と言った。
誰に向かって?
真琴は画面を止める。
「ここです。」
映像の右端。
ライトが一瞬だけ照らした場所。
白いワンピースの少女が立っていた。
しかし少女はレンを見ていない。
その視線は、さらに奥。
トンネルの闇を見つめていた。
まるで、自分よりもっと恐ろしいものを見ているように。
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午後。
二人はレンの実家を訪ねた。
両親は今でも息子の帰りを待っていた。
母親は古びた段ボール箱を持ってくる。
「警察から返ってきた荷物です。」
中にはカメラ。
懐中電灯。
財布。
そして、一冊のメモ帳。
最後のページだけ、文字が残っていた。
> 『歌じゃない。』
その下に続く文章は、途中で途切れている。
> 『歌っているものは──』
そこから先は破られていた。
「このページだけ、誰かが切り取ったんです。」
母親が静かに言う。
「警察も理由は分からないと……。」
悠真は背筋が冷えた。
誰かが真実を隠している。
それとも、歌そのものが証拠を消しているのか。
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帰り道。
山道を車で走っていると、真琴が突然ブレーキを踏んだ。
道路の真ん中に、人影が立っていた。
白いワンピースの少女。
雨も降っていないのに、全身がびしょ濡れだった。
少女はゆっくりと右手を上げる。
そして、山の奥を指差した。
その表情は怯えている。
「逃げろ。」
そう訴えているようだった。
次の瞬間。
少女の姿は霧のように消えた。
悠真と真琴は顔を見合わせる。
「あの子は……。」
「助けようとしている。」
真琴が小さくつぶやく。
悠真も同じ考えだった。
少女は呪いの正体ではない。
何かから逃げ続けている被害者なのだ。
その瞬間、車のラジオが勝手に点いた。
ザーッというノイズのあと、低く重なる無数の歌声が流れ始める。
少女の澄んだ歌ではない。
地の底から響くような、不気味な大合唱。
真琴が青ざめる。
「この歌……。」
「兄の録音にも入っていました。」
歌は数秒で止まり、ラジオは勝手に消えた。
二人は理解する。
これまで聞いていた美しい歌は、誘う歌だった。
今聞こえた歌は違う。
あれこそが、本当に目覚めてはいけないものの声だった。
――第十九話「残響」へ続く。




