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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
9章・セドラル、再び

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第807話 炎剣の亡霊

 雷光が走り、エルとモールの傷が塞がっていく。

だが、その間にもクリフは止まらない。

炎を纏った剣を下げたまま、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


その姿は静かだった・・・静かすぎるほど。

自分が何をしているのかすら考えていない、そんな感じの歩き方だった。


「団長・・・!」


 エルが叫ぶが、返事はない。

クリフはただ歩く。そして、ある距離に入った瞬間――消えた。


「来るぞ!」


龍神の声と同時に、俺は反射的に盾を構える。

直後、凄まじい衝撃が走る。


──見えなかった。

剣が振るわれたことはわかったが、それ以外が認識できない。盾越しに腕が痺れ、地面を数メートル滑らされる。


さらに次の瞬間には、クリフは俺の横を通り過ぎ、後方の青空へ斬りかかっていた。


「っ・・・!」


 青空は咄嗟に身を逸らすが避けきれず、肩口が裂け、血が舞った。

そこへ、間髪入れず二撃目が来る。

今度は、下からの斬り上げだった。


青空は短剣で受けようとしたが、やはり防ぎ切れず吹き飛ばされた。


「青空さん!」


 沙妃が駆け寄ろうとするが、その前にクリフが剣を横薙ぎに払った。

橋の床を焼き裂きながら一直線に走るそれを、未菜が扇で受け流す。


透明な壁が斬撃の軌道を逸らし、熱風が空へ散る。

しかし、クリフはその瞬間にはもう未菜の目前にいた。


「速――」


 言い終わる前に、剣が三度閃く。

未菜は扇で一撃、二撃と捌いた。

だが、三撃目で体勢を崩される。


そこへ、クリフが膝蹴りを撃ち込む。

腹部にめり込み、未菜の体が浮く。


「がっ・・・!」


さらなる追撃として、浮いたところに炎を纏った回し蹴りを決めてきた。

未菜は横へ吹き飛び、橋の欄干へ激突した。


「未菜!」


 俺は斧を握り直し、突っ込む。

だが、クリフは振り向きもしない。

まるで後ろに目があるかのように剣を振るい、俺の斧を受け止める。


火花が飛び散り、熱が周囲に放たれ、重さが伝わる。


「っ・・・!」


 精一杯踏ん張ったが、押し負けた。

こいつ、技量も力も異常なほどにある。

剣筋に無駄がなく、防御、回避、反撃・・・全てが繋がっている。

まさしく、長年戦い続けた熟練の戦士の動きだ。


「クリフ・・・こんな形で、やり合うことになるとはな」


龍神が低く呟く。



 次の瞬間、クリフは剣を捻るように動かし、俺の斧を弾いた。

そして、そのまま首を狙って突きを放ってくる。


危険を感じ、咄嗟に仰け反る。

鼻先を炎が掠めた。


追撃として飛んできた蹴りが腹部に直撃し、息が詰まる。

吹き飛ばされる寸前、エルの槍が横から突き出された。


水を纏った刺突。

だがクリフは、それすら読んでいた。

半身になって回避し、そのまま剣の柄でエルの顎を殴打し、続けて肘打ちをし、最後に回転斬りを放つ。


エルの胸元が裂け、鮮血が散った。


「姉ちゃん!」


 モールが飛び込み、短剣を突き出す。

しかしクリフはその攻撃を避けず、わざと肩で受ける。

肉が裂け、血が飛んでも止まらない。

むしろそのまま強引に踏み込み、モールの首を掴んだ。


「っ・・・!?」


そして、無言のまま橋の柱へ叩きつける。

鈍い音が響き、橋が揺れる。


 その光景を見て、俺は背筋が冷えた。

クリフの強さに震えているのもあるが、それ以上に異様さを感じたのは、技の詠唱以外一言も喋らないことだ。


怒りも、憎しみも、殺意もなく、ただ目の前の“敵”を排除している──それだけのように思える。


 かつて吸血鬼狩りとして戦っていた頃の信念も、仲間への情も・・・何も感じられない。

ただ、生前の戦闘技術と闘争心だけが残り、目的を見失ったまま、目につくものを誰彼構わず襲っている・・・そんな感じがする。


そのことは、龍神も感じていたようだ。


「まるで、壊れた武器だな。もはや、自分が何のために、誰と戦っていたのか・・・そんなことすらも忘れて、目につくもの全てを襲ってるようだ」


 彼は、まだ現実を受け入れきれない様子のエル姉弟とは裏腹に、本気で「やる」顔をしていた。


かつての仲間であろうと、堕ちた相手には容赦なく刃を向ける・・・といったところだろうか。


「エルにモール・・・君たちの気持ちはわかる。だが、現実は残酷だ。こいつはもう、俺たちの知ってるクリフじゃないんだ」


 冷酷なことを言う龍神だが、その表情はどこか憂いを秘めていた。

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