第806話 堕ちた団長
クリフは剣を高く掲げ、透明な赤いドーム状の結界?を広げた。
そしてその数秒後、ドームの範囲内に熱風が吹き荒れた。
俺は平気だったが、青空などは結構なダメージを食らっていた。
俺だけでなくメニィも大してきつく感じていないところを見るに、やはり火属性の攻撃か。
また、その後間髪入れずにクリフは突っ込んできた。
その速度は、剣を振りかぶったのがわかった直後にはもう攻撃を食らっていた・・・というほどで、まさに瞬速と呼ぶべきものだった。
そして後方に払い抜けたかと思うと、すぐに方向転換してまた高速で払い抜ける。
2秒もしないうちに、前後から2発の攻撃を当てるよう意識して動いているように感じられる。
俺は2発目は咄嗟に振り向いて盾で防げて、隙を見て回復を行った。
幸いにも、2連撃直後の隙を潰す攻撃まではしてこないようだ。
と思っていたら、剣に炎を纏わせて斬撃を3発続けて飛ばしてきた。
これはメニィが結界を張って防いだが、当のメニィはさっきの2連撃の初撃を食らい、深手を負っている。
他のメンバーとまとめて回復を行ったが、魔力まで回復する余裕はなかった。
というのは、傷を癒したかと思うとすぐまた攻撃してきたからだ。
「[炎は不滅だ!]」
奥義のそれのような詠唱をしつつ、クリフはその場で剣を斜め上に振り上げる。
メニィと、そのすぐ近くにいた亮の足元から巨大な刃が飛び出す。
2人は大きく吹き飛ばされ、落ちてきたところを無属性の斬撃で切り裂かれた。
声をかける間もなく、クリフはこちらにも攻めてくる。
剣を片手に足首を捻り、なんと4人に分身して、一斉に俺を斬ってきた。
4方向からの同時攻撃となるとさすがに防げず、全身に手痛い攻撃を食らった。
そこに横から未菜が光の魔弾を飛ばすが、何なく避けられた上に距離を大きく詰められ、反撃を食らった。
幸いにも未菜は扇持ちなので、うまいこと凌いだ・・・かに思われたが、クリフは巧みに立ち回って未菜のガードを捲り、隙をついて剣を突き立てた。
白い袴が破け、瞬く間に赤く染まっていく様は、まるで巫女が暗殺者に襲われているかの如き光景だ。
「・・・!」
未菜は懸命にクリフを掴んで反撃しようとしたが、奴はすぐに飛び退いて回避。
そのまま手を翳して、未菜を炎の球体に閉じ込め、飛び込むようにして斬った。
このままではまずいと感じた俺は、咄嗟に龍神のほうを見た。
生前のこいつと関わりが一応あった龍神なら、何かこの状況を打破する方法がわかるのではないか、と藁にも縋る想いで頼ったのだ。
「なあ、何かわかるだろ?こいつの弱点とか、何とか!」
「そんなの知らん!クリフは、俺に負けず劣らずの実力を持つ吸血鬼狩りだ。そんな弱点なんて・・・!」
そこまで言って、龍神ははっとした。
「・・・強いて言うなら、攻撃の隙を突くことか。どんな奴でも、攻撃の前後には必ず隙ができる。そこを狙えば・・・!」
「・・・!」
クリフは再び、瞬速の飛び込み斬りを放ってくる。
俺はそれを盾を構え、結界を張って前後からの攻撃をどうにか防いだ。そして、奴の攻撃が終わった直後の隙をついて斧を投げた。
クリフは剣を高く掲げ、足元から炎を噴き出してそれを防ごうとするが、その程度では止まらない。
回転する斧が、奴の左肩に命中した。
その際に流れた血は、普通の異人と同じ赤いもの。
アンデッド特有の黒い血ではなく、見た目も普通の異人と大差ないので、アンデッドだとは思えない。
しかし、それでも間違いなくアンデッドなのだろう。
少なくとも、まともな知性はないに違いない・・・かつての仲間であったはずの者を、こうして襲っているのだから。
「[消えぬ炎よ、燃え滾れ!]」
詠唱と共に、あの火山弾のような火球が降り注ぐ技を使ってきた。
龍神によるとこれはクリフの奥義で、「ボルガノン・ブレイク」という名前らしい。
「大した威力の技だと思ってたが、まさか喰らうことになる日がこようとはな!」
そう語る龍神は、異様なほど俊敏に動いて火山弾をすべて回避した。
俺は、言わずもがな盾と結界を駆使してガードした。
そこで、最初に吹き飛ばされたエルとモールが戻ってきた。
2人は、かつての自分たちの団長だったクリフが変わり果てていたことを、まだ受け入れられていない様子だった。
「団長・・・どうして・・・」
「あなたは、そう簡単には死なない・・・そう思っていたのに!」
だが、悲しんでいる暇はない。
それは、俺にもよくわかった。
「泣くのは後にしろ!今は、こいつを何とかするんだ!」
龍神はそう言いつつ、刀を掲げてあたりに雷を迸らせ、エルとモールを回復した。
その目は相変わらず冷酷で、落ち着いているが・・・どこか複雑な想いを感じられる、ような気がした。




