第804話 その命は終わらない
炎はあっという間に死神の体を覆うローブを包んでいき、奴はたちまち炎に包まれた。
その際、奴は最初は余裕そうな顔をしていたが、やがて悲鳴のようなうめき声を上げた。
「ぐおっ・・・!」
そうして、炎上している間にもキョウラたちが追撃を食らわせたこともあってか、奴はあるタイミングで動きを止め、黒い液体をにわかに吐き出して唸った。
「・・・これほどとは。まあいい、どうせ顧客が増えるだけだ」
奴は最後にそう呟き、風に吹かれる黒い霧のようになって消えていった。
「これで・・・いいんだよな」
「ええ」
杖と魔導書を収め、キョウラはふっと一息つく。
「最後に、“顧客”って言ってたが・・・どういう意味だろう?」
「おそらく、“リストに載った人物”ということだと思います」
死神には、仕事の邪魔をした者の名前を記すブラックリストのようなリストがあり、それに名前が載せられた人物は、今後死神たちから優先的に狙われるようになる。
そして、対象を仕留めた者には特別な報酬が与えられるのだという。
「・・・まあ、要は死神の指名手配みたいなものか」
龍神がそう言うと、キョウラは頷いた。
「とはいえ、今回の一件で死神を1人撃退した以上、私たちを狙ってくる死神はそう多くないかと。リストに載った人物によって、死神側が受けた損害も一緒に記録されますから」
死神側が受けた損害が大きい者ほど、殺した時の報酬が大きい。だが、その分リスクがあるということでもあるため、大半の死神は狙おうとはしない。
その辺は、人類の指名手配などと変わらないようだ。
「ってことは、今後私たち・・・死神に狙われる機会が少なからずある、ってことですか?」
メニィは若干怯えているようだったが、モールが励ますように言った。
「大丈夫さ。キョウラさんたちがいるし!」
キョウラは、「まあ、確かに私たちは彼らに対処できますが・・・」と謙遜するように言った。
「本来、死神の相手は私たちの役目ではないんです。いや、正確には・・・私たちの主な役目ではないんです」
死神の本来の天敵、というか対処を仕事とする種族は「霊騎士」。
これまでにも度々名前を聞いてきた、騎士の最上位種族だ。
死神は寿命を歪める存在であるのに対して、霊騎士は寿命を守る存在。
すべての人にある寿命を無視し、自分たちのために人の命を終わらせるのが死神であり、
寿命を迎えて死んだ者の魂を冥界に連れていき、また新しく生まれ変わってくる者の魂を現世に連れてくるのが霊騎士だという。
「霊騎士か・・・1回は会ってみたいもんだけどな」
「そうだな。昔の種族に未練はないが、最上位の騎士には一度お目にかかってみたいものだ」
モールとエルがそんなことを言った。
系統最上位の種族は、もとより数が少なく滅多に出会うことができないのだが、その中でも霊騎士は特に数が少ない希少な種族であり、生きているうちに一度でも出会えたらすごい、と言われることさえあるという。
「霊騎士と反逆者は、出会ったことがある者がほとんどいない種族として有名ですね。反逆者なんて、実在するかどうかすら怪しいと言われたこともありますし」
反逆者とは、殺人者系の最上位種族。
寿命がなく半永久的に生きられる、仮に死んでも自分の意思で生まれ変わることができる、何があろうと生き続けて、この世界そのものに「反逆」し続ける・・・などと言われる。
メニィは、「少しばかり怖いが、一度は会ってみたい」という感情を抱いているらしい。
正直、俺もちょっと会ってみたい・・・「反逆者」なんて名前も格好いい。
最上位の殺人者、というのがどんなやつなのかも気になる。
「最上位の異人か・・・私も会ってみたいな」
そう語ったのは、ようやく正気に戻ったゼイール。
彼は防人だが、自身の系統の最上位種族の「勇人」に一度会ってみたい、と昔思っていたらしい。
勇人は、その別名をずばり「勇者」ともいい、かつてこの大陸を救った8人の英雄の筆頭、アモールの種族でもあった。
最上位種族の中では数が多いほうだとされているが、それでも貴重な異人であることには変わりない。
「昔持っていた夢だが・・・どうせ生きるなら、ぶり返してもいいかもしれないな」
ゼイールはどこか悲しげに笑い、「あなたたちのおかげで、夢を思い出したよ」と呟いた。




