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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
9章・セドラル、再び

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第802話 死は救済か

 涙をこぼすゼイールを、俺たちは何も言わず見つめる。


やがて彼の肩にキョウラが手を置き、無言で何かの術を唱えた。

その手から丸い光が放たれ、淡く輝く。

それが10秒ほど続いて消えると、ゼイールは泣き止み、顔を上げた。


「落ち着いて、少しは考えが変わりましたか?」


 そう尋ねられると、ゼイールは頷いた。


「ありがとう。あなたたちのおかげで、また生きてみようと思えた」


その顔は、少なくとも今この瞬間には、そう強く決意したような表情だった。


「それなら、良かったです」


キョウラが微笑んだその直後、彼女とゼイールの背後の崖から何か、真っ黒いものが飛び出してきた。


 俺は咄嗟に叫び、2人のみならずその場の全員を伏せさせた。

崖下から飛び上がってきた黒い塊は、音もなく高速で飛んでいき、橋を挟んで反対側へ消えていった。


・・・また来る。

そう直感した俺は、全員に警戒を促した。

そしてその直感は、見事に的中した。



「あ、あれは・・・!?」


 メニィが、空中のある一点を指さす。

そこにいたのは、黒い煙か雲の塊のような物体──さっき飛び出してきたのと同じものだ。


空中に留まるそれは、やがて周囲の黒いもやを消し飛ばしていき・・・中にいたものが正体を現した。


それは、男の異人だった──灰色のローブで身を覆った、坊主頭の。

頬にはドクロの入れ墨があり、目は紫色をしている。


「もしかして・・・死神!?」


 メニィが叫ぶと、そいつはにんまりと笑った。


「ご名答だ。私は・・・いや、名乗る必要はないか。そうだな、単なるヒラの死神とでも言っておこう」


死神って・・・いや、いてもおかしくはないが、この世界では異人の扱いなのか?

その疑問を口にしたところ、メニィが答えてくれた。


「ええ、彼らは紛うことなき異人です。ただ、普通の異人とは少し違います。命を持たず、肉体も実体も持たない、霊のような種族です!」


 すると、死神は首を傾げた。


「ふーむ、その言い方は少々疑問だな。まあいい・・・」


それより今は、と言ってキョウラを睨む。


「若き女よ。僧侶ならば、わかっているだろう?ヒラの異人如きが、死神の仕事を邪魔してはならぬと」


「ええ、承知しています。でも、だからこそ止めました。この方の魂を奪うなんて、そんなこと・・・許すわけにはいきません!」


 キョウラは杖を構える。

それを見て、死神は舌打ちをする。


「なぜだ?お前も聞いたであろう。その男は、人生に絶望している。死にたがっている。ならば、その願いを叶えてやるのは立派な情けではないのか?」


「御託はやめなさい!あなたの本音は、この方を取り殺して魂を奪い、冥界に持ち帰って自身の手柄とすること・・・そうでしょう!」


「だったら何だ?お前に何の関係がある?」


「大ありです。一時の苦しみを理由に、半永久的な苦しみの中に身を投じようとしている者を・・・死神に殺されそうになっている者を助けないなんて、倫理にも戒律にも反します!」


そこに、亮とエルも参戦する。


「この男が、傷つかずにここまで来られたのはお前の仕業か!」


「始めから彼に目をつけていたんだな・・・死にたがっているからと言って、命を奪っていいなんてことはない!」


「ふん、お前たちには言われたくないな。他者を恨み、憎み、傷つけ、奪い、殺すことでしか生きられぬ異人に・・・」


 死神はそう続け、ゼイールに手を伸ばした。


(たくま)しき異人よ・・・お前は立派だ。よくぞ、今まで懸命に生きてきた。だが、それはさぞ辛く、不本意なものだったであろう。だが、もういいのだ。これ以上無理をすることはない。そんな者たちの言葉など無視して、この橋から飛び降りるのだ」


「・・・」


言葉を失うゼイールに、死神は優しく囁くように言う。


「恐れることはないぞ?死とは安寧。すべての生物に、いずれ均等に訪れるもの。それが多少早まったとて、何もおかしくはない。辛く苦しい生にすがりつくのは、真理を理解していない愚か者のすることだ」


 その様子は、まさしく言葉巧みに死へと誘うもの──死神だ。

だが、キョウラがそれを全力で止める。


「ゼイールさん、流されないでください!死神は、あらゆる手を使って標的の魂を手に入れようとします!そうなれば、あなたは安寧どころか、魂を奪われてなお思念だけがここに残り続けることに・・・!」


そこで、キョウラは死神の鎌の斬撃を食らって吹き飛ばされた。

死神は呆れたような顔をしてため息をつき、改めてゼイールに手を伸ばす。


 しかし、それを槍と鞭、ブーメランが止めた。

その主は、エルと亮と沙妃。

彼らもまた、呆れたような顔をしていた。


「死神・・・適当な者に目をつけ、あの手この手で命を捨てさせようとする邪悪な異人。そんな存在が、私たちの前に現れようとはな!」


「お前たちは、自分の稼ぎと名誉のために無実の者を殺して、魂を手にしているのだろう・・・まだ未来の、寿命のある者を殺して!」


「私たち、こんなこと言える立場じゃないけど・・・少なくとも、追い詰められた人に取り憑いて、死なせようとするのは許せない!」


そう語る3人を見て、死神は鼻で笑った。


「そうか・・・お前たち、そんなに死にたいのか。ならばよかろう。その望み、叶えてやる」


 死神は鎌を目の前で音を立てて回転させ、構えた。

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