表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
9章・セドラル、再び

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

842/847

第801話 死ぬ理由、生きる理由

 俺たちの足音に気づいたのか、男は急いでフェンスを登ろうとした。

しかし、登り切って飛び降りる前にキョウラが追いつき、杖を伸ばして男の前に白い障壁を作り出し、落下を防いだ。


そしてキョウラはフェンスから男の手を離させ、引きずり降ろして押さえつけた。


「バカな真似はやめなさい!」


 怒るように言うキョウラに、男は絶望と驚きが入り混じったような顔で必死に反論した。


「離せ・・・!なんで止めるんだ!」


「あなたこそ、なぜ命を捨てようなどと!」


すると、男は怒りと悲しみ、絶望、その他もろもろの感情が合わさったような複雑な表情をして、喚いた。


「私はもう、死ぬしかないんだ!わざわざここまで来たんだ・・・このまま死なせてくれ!」


 すると、キョウラのみならず青空と沙妃も一歩前に出た。


「バカね・・・ここまで来れる幸運と勇気があるんなら、生きることだってできるでしょうに!」


「何があったのか知らないけど、死ぬなんて絶対にダメ!そんなこと・・・私たちが許さない!」


亮たちも何か言いたげだったが、キョウラたち3人で男を押さえられているからか、前に踏み出すことはなかった。

代わりに、エルが「ひとまず話を聞かせてくれ」と言った。


男は、「言ったところで何になるんだ・・・!」と言ったが、エルは「とにかく、まずは事情を説明してほしい」と言った。

そのことから、何となく「キョウラたちとは思想が違う」ということが感じ取れた。





 何とか男を落ち着かせ、話を聞くことができた。


まず、男の名前はゼイール。

とある町に住む守人(もりびと)であり、妻と娘と3人で穏やかに暮らしていた。

裕福ではないものの、幸せな家庭を築いていた。

しかし、1ヶ月前に妻が町の外で異形に襲われ、亡くなったことから歯車が狂い出した。


 ゼイールは妻の葬儀を教会でしてもらったのだが、その際に費用がかかると言われた。

その額、実に700万。


「まさか!町の人なら、葬儀は基本無料ですし、有料だとしても、そんなにかかるはずは・・・!」


キョウラはそう口走ったが、慌てて口を閉じてゼイールに話を続けさせた。



 ゼイールには200万の蓄えがあったが、それを全部吐き出しても500万足りなかったため、誰かから借りることにした。

しかし、町には一度にそんな額を貸してくれる知り合いはいない。


そこで、最近町にやってきたばかりだという金融業者に申し込んでみた。

その結果、業者はすんなりと金を貸してくれ、葬儀費用を払うことができた。


 しかし、その業者は・・・まあ早い話が闇金の類いで、借りてからわずか10日後には利息として50万、さらに10日後には55万を払えと迫ってきた。


無論、そんな額を払えるはずもなく、当然の如く闇金業者からの嫌がらせや家への押しかけ、脅しが始まった。

ゼイールは、娘ともども怯える日々を過ごすこととなった。


 そして、今からちょうど3日前には借りてから1ヶ月が経過し、利息の合計は160.5万、元金と合わせると660.5万という額に到達。


すると、闇金業者たちはゼイールの娘であるシフォンに目をつけ、金を返せないのなら娘の身を切り売りしろと言い出した。


ゼイールがそれを拒否すると、奴らは家に押し入ってきて、無理やり娘を連れ去った上、ついでに家も売れ、家財道具も片っ端から売り払え、何ならこの場で差し押さえるなどと言い出した。


無論ゼイールは抵抗したが、多勢に無勢で何なく押し切られてしまい、自身は大して金にならないだろうという理由で放り出された。


 そうして、家族も家も金もすべて失ったゼイールは、この上はもう死ぬしかないと考え、最低限の準備をしてこのラド・テナの割れ目までやってきた。


誰にも見つからず、そして迷惑をかけることのないよう、目立たない格好をして町を出て、道中の異形やアンデッドをどうにか撃退しつつ、ここまでたどり着いた。


さっき地面に置いていたのは、旅立つ際に持ってきた「最期の荷物」で、一呼吸置いた後に先に崖に投げ込み、その後自分も落ちるつもりだったらしい。


「・・・なのに、計画は失敗した。あなたたちが来たから、私は死ねなかった。660万なんて金、返せるわけないのに。娘も妻も、もう帰ってこないのに・・・」


 ゼイールは涙をこぼし、「死にたい・・・死んで、楽になりたい・・・」と漏らした。


「そのような事情があったのですね・・・しかし、それはとんでもない間違いです」


キョウラは、もう怒ってはいなかった。

その代わり、真剣な顔で彼を見つめた。


「あなたが死んだとて、業者が諦めるわけではありません。むしろあなたの親族や友人、あるいは無関係の人にまで返済を迫るでしょう。それに、あなたが自ら命を絶ったと知ったら、娘さんはどう思うでしょうか」


 そこで、亮が初めて口を開いた。


「あなたの気持ちは理解できる。だが、金は命より重いものではない・・・絶対にな。あなたが死んだところで、誰も得はしない。何より、あなた自身がさらに苦しむことになる」


亮は話した・・・殺人者の間に伝わる考えを。

彼らの、「絶対に自ら命を絶ってはならない」という掟の成り立ちに関わる思想を。


「どんな理由があれ、自ら命を絶てば、相応の報いを受けることになる。それがいかに辛く、苦しいものであろうと、逃がれることはできない。・・・無論、これは殺人者の間に伝わる思想だがな」


 そこでキョウラが口を開き、自身が「僧侶」、本物の聖職者であることを明かした。

そして彼女は、改めて怒った顔をする。


「この割れ目・・・そしてここに至るまでの道には、多くの自殺者の魂が漂っています。死んでも楽になどなれず、むしろもっと苦しみ、嘆き、悲しみ、成仏できず、この世をさまよう・・・そんな魂たちを、私は見てきました。あなたもそうなりたいのですか?」


ここから飛び降りても、絶対にいいことは何もない。

死んで地獄から逃げた先にあるのは、更なる地獄だけ。

苦しみから目を背け、命の(ことわり)に背いた者に待つのは、残酷で恐ろしい宿命。


キョウラのみならず、青空や未菜、モールといった殺人者たちがそう言った。


「・・・」


 ゼイールは言葉を失い、数秒の後・・・声を上げて嗚咽(おえつ)した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ