第27話
「いきなり過ぎないか! 君達は! もっとこう、段取りってものが!」
大胆な行動に驚くあまり音無は、ずれた眼鏡をそそくさに直す。
「近いうちに行くことになるんだ。いつ行っても変わらねぇよ」
「悪いな、音無。蒼助はいつもこうだから」
俺達は放課後に急いで店に向かった。
「19時閉店か、まだ店は開いてるな」
腕時計の針は18時を指している。ラストオーダーギリギリってところか。
「じゃあ、入るぞ」
蒼助がドアを開けるとオレンジ色の電灯が輝く。テーブル席が4席とカウンター席がある小さなカフェだ。
「いらっしゃいませ!」
「彼女だ......」
音無が小声で耳打ちする。笑顔と共に出迎えてくれたのは店主の澤城冬だ。
「あっ! その制服、翠櫻高校の生徒だよね」
小顔で整った顔立ちは淡い水色の髪さえも絵になる程だ。
「遅くにすみません。まだ大丈夫ですか?」
時間がギリギリだったため俺は一応確認をした。
「大丈夫ですよ! ゆっくりしていってね!」
「でもこの時間だとドリンクしか出せないけど大丈夫?」
ハキハキとした喋り方、明るい表情。彼女が本当にエデンナイツがどうか疑うほど社交性の高さを感じる。
「2人ともこのダイヤモンドティーでいいか?」
長いするわけじゃないし、このオススメので良いだろう。2人に確認すると蒼助と音無は顔を伏せている。
「おい、どうした?」
「そ、それでいい......」
「ぼ、僕もそれで構わない」
二人はボソボソと呟いた。
「すいません。ダイヤモンドティー三つお願いします」
「かしこまりました。お待ちください!」
澤城冬は笑顔を崩さず厨房に向かった。
「2人ともなんか変だぞ」
「はぁ? 変じゃねーよ!」
蒼助は過剰に反応する。心なしか顔が赤い。
「白鋼君、変なことを言わないでくれ」
メニューを見ながら、落ち着いた声で音無も反応する。
「音無お前......」
「何か?」
「メニュー逆だぞ」
指摘すると両手をあたふたさせ、メニューを正位置に持ち直す。
「お前ら変だぞ。もしかして彼女に一目惚れか? 綺麗な人だったからな」
「おい! 潤! そーゆーお前はどうなんだよ!」
珍しく蒼助は感情的だ。
「そうですよ、白鋼君」
二人に睨まれる。そう言われてもな。綺麗な人だとは思うが。
「はーい。お待たせしました。ダイヤモンドティーです」
そうこうしていると彼女の声が聞こえ、注文品が届いた。
「おぉ」
思わず声が出てしまうほど綺麗な飲み物が出される。ティーカップを覗くとフルーティーな香りが立つ。色は無色透明、その中で小さな白い花びらが舞う様子は雪の様だ。
「なるほど、だからダイヤモンドか」
一口飲むと白い雪原を走るような爽やかな香りが駆け巡る。ほのかな甘み、苦味は無く酸味は控えめで飲みやすい。二人もその味を堪能しているようだ。
ダイヤモンドティーを飲んで落ち着いたのか三人での話が不思議と弾んだ。久しぶりに音無に会ったというのもあるかも知れない。
「じゃあそろそろ帰るか。会計お願いします」
時計を見ると閉店10分前だ。時間を忘れて談笑していたな。
「はーい! ダイヤモンドティー三点で千円になります」
「安いですね、値段間違ってませんか?」
「学生割りだよ!」
「ありがとうございます」
「またお越し下さい!」
明るい笑顔に見送られながらレジを背にして出入口に向かう。一歩踏み出しだ時、囁く様な声が耳元で聞こえた。
「雪ちゃんに危害は加えないから」
すぐに後ろを振り向いたが彼女はレジには居なかった。
「どうした? 潤?」
「なんでもな......い」
「白鋼君、君も一目惚れかい?」
「君も? 音無やっぱり一目惚れか!」
音無の首に腕を掛け、からかう。
「ち、違う。これは言葉のあやでだな」
「ハハッ、なんだよそれ」
あの時、俺の耳元で囁かれた声は先ほどの彼女とは思えないほど凍てついた声だった。




