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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
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警戒

良治は頭にナイフを浮かべたまま、百メートルほど遠くの男を凝視していた。


それは、確かに男のはずだ…。

何故なら、全く殺意を感じない…。


男というのはつまらないもので、歳を取るごとに何も物を感じなくなっていく。


なんでもサイコパスって奴も、男は、女の1・5倍、多いらしい。

人を殺す、という事すら、何の心の負荷にもならなくなっていくものなのだ。


だから、この男は、まるでジャングルに潜むトカゲのような目で、こちらを、ただ見ていた。

ただ、網膜に映していた。


もうこの男に、明確な感情など無いのだろう。

機械的に酒を飲み、女を抱いて浅い眠りに漂うだけの生き物だ。


俺も少し前まで、そうだった…。


良治は思った。


だが、良治は、その生活に子供が闖入してきた事で事情が変わった。

良治が好きなパンクロックを生んだイギリスとおなじ、白人の国の子供だ。


この子供の生まれ育ちは、まさにパンクだった。

ストリートチルドレンになり、人工的に影繰りにされたのだという。


そう、その少年は、パンクそのものだったのだ。

音楽をも否定する強い叫びであり、しかし叫ぶために嫌悪する音楽であらねばならないという、矛盾をも抱きながら、悲痛なまでに叫ぶのがパンクだ。

だからパンクは、音楽を憎んでいる。


敬愛するセックスピストルズは、解散したが、再結成した。

ボーカルのジョニーロッンは、金のために再結成した、と叫びを上げた。


それがパンクだ。

そして良治はしばらく、真のパンクを忘れて、濁った沼のヤモリのようにジンに痺れて全てを忘れようとしていた。


だが良治の前に、パンクが天から降ってきたのだ。


良治は、随分前に忘れていた叫びを、ユリに呼び起されていた。


だから向こうには、こっちの殺意が伝わっているはずだ。

青臭い餓鬼だと思われているかもしれない。


そう思ってくれれば、少しは上手くいくかもしんねぇんだがな。


なにしろ、相当に強いのだけは、良治にも判った。

気が付くのが少し遅れていたら、おそらく頭を持っていかれたはずだ。


瞬間、良治が男に気が付いたために、男は手を引いた。


同士討ちなど、この手のスナイパーにとっては不快極まりない下手なのだ。


今は、だから互いに、相手の気が削がれる瞬間を待っているところだ。


殴られずに殴るのがスナイパーの極意であって、手傷を負ってしまうと、スナイパーの力は半減してしまう。

長距離射撃とは、どこから撃っているのか判らないから恐ろしいのであって、場所が判れば物陰に隠れるなり伏せるなり回避行動をとるのが普通だ。


だから敵に補足される前に移動するのが常道であり、今のような睨み合いは上手くない。

だが、互いに長距離射手だった場合、ともするとこうした睨み合いが生まれるのだ。


逃げようとすれば隙になる。


だから動けない。


引き金に手をかけたまま、もう十分以上、この睨み合いは続いていた。


長距離射手とて、長時間の集中の持続は、強い疲弊を生む。


既にこれは、持久戦だった。


先にへばった方が、隙を作るだろう。




ユリコの足が治り、ユリコは唖然とした顔で、足を地面に降ろしてみる。


「あ…、あんた凄いな…。

魔法使いみたいだ…」


「そうじゃありません。

治療の方法を思いついただけで、だいぶ良いはずですが、しばらくは注意してください」


と真子は照れた。


崩れたビルの上では、水使いがクロコダイルマンにボコボコに殴られていて、勇気はその手伝いをしている感じだ。


ユリは、未だ地面の下の敵と向かい合っているが、顔はどうも、勝ち誇っている感じだった。


一方、福は、汗で、着ていたジャージも湿ってしまっている。


透明人間は、福以外では感知しようもない強敵だった。

だから真子もユリコも、他の敵が福を襲ったりしないよう、この場を動くことは出来なかった。





襲い掛かる意思は、すでに固めたはずだったが、透明人間はまだ、動きを見せない。


おそらく影繰りにとって、ただ透明になる、と言うのは、必ずしも大きなアドバンテージにはならないのだろう。


福もぼんやりと気配を感じるが、感知の質によっては、眼に見えない、というのは影繰りの感知を妨げるものではない。

勇気も、なんとなく見えた、と言ったようなことは話してた。


ただし人間は圧倒的に視力に頼った生物であり、影繰りも人間の範疇である以上、そこからそれほど大きく外れることは出来ない。

事実、真子の感知は「見る」ことに限られていたし、戦うとき目を瞑る、というのは福ぐらいと言って良い。


決意は固めているはずなのに動かないのはなぜか…、と福は訝っている。


毒が敵にダメージを与えているのだろうか?


かもしれなかったが、あくまで能力を解かない程度のダメージだ。

逃げる気もない。

もしかすると、なにか敵の能力に関するタイムラグなのかもしれなかった。


もう攻撃は始まっているのかもしれない…。


福の中で、警戒心が、少しづつ膨らんでいった。





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