90意図
トカゲマンが鋭く腕を突き出すが、どうもそれは空振りだったようだ。
むっ、とトカゲマンは唸り、周囲を見回し、下で見上げている真子たちに気が付いた。
「おい、そっちに行くかもしれねーから、気をつけろよ!」
気安げにトカゲマンは声をかけてきた。
「何がだ?」
勇気が問う。
「透明人間だよ!
どうも、他人と見れば襲って歩いているらしいな」
確かに、トカゲマンの姿は確認できたが、相手は全く見えなかった。
「福君、判る?」
福はもとより、必死に何かを察知しようとしていた。
「何かいるのは判る…。
待って…」
福は目を瞑り、意識を集中していた。
「あんたは、どうやって察知してたんだ?」
福の背中の、ユリコが聞いた。
「俺は肉弾戦中なら、敵の姿が背中ででも判る。
微弱な電気って奴でな、俺は知る事が出来るんだ。
まぁ、せいぜい半径3メートルってところだがな」
トカゲマンはトカゲの顔で、笑った。
真子は、考えていた。
今、この穴の中には最低5人の殺人者がいて、死体を量産しているらしい…。
五人の能力はそれぞれ、鋭利な刃物か、強力な力で引き千切るか、死因不明か、幾何学的な穴を体にあけるか、苦しみ悶える、かの5つだ。
透明人間がいてそれを起こした、のも1つの可能性ではあったが、もしかすると…。
トカゲマンも、力は強そうだったし、爪も鋭そうだった。
独演で戦うふりも、出来ない事ではない。
トカゲマン自身が、鋭利な刃物、やパワーで引き千切る、を行える可能性もあった。
が、もっと厄介なのは本当に透明人間がいた場合だ。
真子には、全く感知できない敵、という事になる。
「いたっ!」
福は叫び、右横を見た。
その時、地面のコンクリート片が、パキリと割れた。
「クソ、毒は当たらなかった!」
福が悔しがる。
「どんな奴だった?」
ユリコが聞くが、福は、
「俺は姿かたち、みたいなのは判らないんだよ。
ただ、あまり体は大きくない。
それは判った」
福が感知出来たなら、透明人間で確定だった。
真子には最悪の敵だ。
真子の能力では、全く存在すら理解できない…。
「へっへー、お困りのようだね」
颯太が口を挟んできた。
真子は、頭の中で話した。
「もしかして、颯太は判るのか?」
「つまり敵は、攻殻機動隊的な方法で透明になっているのさ!」
「なんだ、それ?」
映画はある程度見ていても、アニメは全く無知だった。
「まー体の表面に、カメレオン的に外の風景を描き出し、しかも動かすんだな」
なるほど…。
そう言われれば、真子にも、ふんわりとは理解できた。
「でも、それだと、横から見たら丸判りなんじゃないのか?」
「自分の能力を知っていれば、上手く立ち回れるって事さ」
「あの、トカゲマンさん!」
真子は叫んだ。
「俺はワニ人間だよ!
せめてクロコダイルマンと呼んでくれ!」
そう言われてみれば、顎の感じがトカゲより頑強そうだった。
「もし、僕の思う透明ならば、そこからならある程度位置が特定できると思うんです。
ご協力願いますか?」
ほう、とクロコダイルマンは唸り、
「良い考えだとは思うが、接近戦でそれじゃ、とても敵わないぜ」
確かに言われて反応する、その一瞬で透明人間は既に殺戮を終えているだろう。
「待って!
俺なら、たぶん奴と戦える!」
福が宣言した。
確かにあまり明瞭にでは無いにしろ透明人間を感知できるのは、この場では福だけだ。
「そうだな。
よし、じゃああたしを下ろして、戦えよ」
ユリコが言い、福は頷いてユリコを倒れたバイクの上に置いた。
福は、目を瞑って透明人間を感知しようと、集中した。
真子たちは、ユリコの周りに集まる。
敵が福とだけ戦おうと思うかどうかは、真子たちには判らないからだ。
福は、数台の車が派手にクラッシュしたらしい瓦礫を背景に、目を瞑って立っていた。
同時に真子も、何とか敵を感知できないのか、と頭を絞っていた。
「さっき、コンクリートが割れたよね」
と、真子は思い至った。
そういう事で、位置を特定できる可能性がある。
「ま、向こうも同じ失敗はしそうにないけどな」
ユリコは言うが、しかし対策にはなるはずだ。
真子は自分たちの周囲に、踏めば音がしそうなものを並べた。
「だけど、なんで人殺しをしてるんだ?
早く外に出ようとは思わないのかな?」
元気は首を傾げた。
「あれじゃねーか。
思いっきり影能力を使ってみたい、的な奴」
ユリコが推測する。
「一人ぐらいはいるかもしれないけど、5人も同時に現れるかな?
しかもその5人が、筋金入りに強いって凄い偶然だよ」
真子は疑問を募らせていた。
疑惑、と言ってもいいかもしれない。
何らかの意図があり、示し合わせて殺害を行っている五人組ではないか、という疑惑だ。
ピッピの背中に乗って、竜吉は新宿まで東京の空を旅してきた。
今は新宿駅ビルの屋上から、穴を見ていた。
「どうするの竜吉?
やつら、もう1時間以上も穴の中でしょう?」
「…ああ…」
竜吉のノートPCで、穴の中の状況もある程度は判る。
だが、どうにも解せない動きが幾つも見られていた。
1つは、大量の死体を、誰かが運んでいる、という事。
そしてもう一つは、5人の殺人者が現れ、無作為に人を襲っているらしい、という事だ。
そして小田切誠の消息が消えたのも新宿で、あの穴が発生したのと同時だった。
SNSで無作為に呟き、状況をコントロールしようと思った竜吉だったが、どうも今の状況は、他の誰かがコントロールしているように感じられた。
「やはり、穴に飛び込むしかないのか…」
竜吉が呟いた時、
「いやー、やっぱりここにいましたねぇ」
五人の男が、ピッピたちの前に現れた。
キャスケット帽をかぶった小柄な少年に率いられた男たちだった。
「僕は伸介。
1度、小田切誠たちと出会い、コテンパンにやられたんですよ。
ただね…」
少年はニヤリ、と笑うと、彼の手には一枚のカードがあった。
「魔術師のカード…、つまり誰かが糸を引いているのを理解した。
だから、君たちに合流しようと思ったんですよ」
キャスケット帽の少年は、薄く、笑った。




