89新たな敵
福の叫びが、トンネル内に響き渡った。
真子も見て見ると、上に上る階段は、途中で土砂に潰されていた。
しまった!
真子は皆を、行き止まりに誘導してしまった。
しかも、背後にはゾンビがズルッ、ズルッ、と、遅いが、しかし確実に迫ってきている。
落とすしかないのか…。
しかし、透過を使えば、他は判らないが、良治とユリには真子の正体がバレてしまうだろう。
「仕方ねぇな!
ユリ、もう1匹、虫を飛ばすぜ!」
良治が言い、ユリが、
「判った!」
と、ピョン、と虫を1匹、良治に飛ばした。
どうやらユリは、1匹づつ虫が使えるようになっていたらしい。
素早く良治が、ゾンビにナイフを撃ち込んだ。
グシャリ、とゾンビは腕の力も失い、倒れた。
真子は考えていた。
丸の内線を逃走ルートに使い、ゾンビを運び出そうと考えているのなら、そのトンネルを潰す筈は無かった。
丸の内線が生きているのだったら、この地下構造物が歪んでいる、とかではない筈なのだ。
だとしたら、出口は爆発で埋まってはいても、地上から、そう離れているとは思えない。
だが、ゾンビがいると言うのは危険だった。
ゾンビマスターとゾンビは、どの程度か判らないが感覚を共有は出来ると考えた方が良いからだ。
今、このゾンビを潰したとしても、仲間を救いに別のゾンビが来る可能性があった。
真子は、影の手で、改札口をボキッと引き抜いた。
重さは何百キロかはありそうだ。
それを、ユリの虫2匹にたかられたゾンビの上に落とした。
「元の洞窟に戻りましょう。
もしゾンビマスターがここに気づいたら、援軍が送られる可能性があります。
そうなったらとても太刀打ちできない!」
真子たちは階段を降り、地下鉄通路から走り出た。
「ここ、崩れるんだろ?」
ユリコは不安げに天井を見回す。
「遅かれ早かれ、崩れるでしょうが、もしかしたら自然の崩壊に任せるかもしれません。
死体の確保が目的だったら、後は可及的速やかに逃走するのが利巧かもしれない。
どの道、いつかは崩れるに決まっているのだから、そんなところに時間をかけないかもしれない。
それだと、しばらくは均衡が保たれても不思議じゃありません。
むしろ、わざと均整を保たてておいて、騒ぎを大きくする方が、彼らにしたら逃げやすいかもしれません。
このまま道路沿いを進み、他に出口が無さそうなら、やはりペペ地下通路を目指しましょう」
言って、真子たちは歩き始める。
崩れた新宿通りは、斜めに傾いたり、逆さになったり、数メートルのブロックに分かれてずたずたに砕けながらも、道に長く続いていた。
周囲には、ユリが手を挟まれていたような自動車が、あちこちに潰れていたが、今は別な風景も見えていた。
「死体が…、増えてるよね?」
勇気が薄気味悪そうに言った。
ユリを救出に言ったときに、こういう死体は無かったはずだ。
だが、今は十メートルおきに、と言っても良いほど死体が見つかった。
半分に千切られたもの、鋭利な刃物で切られたもの、どう死んだのか遺体からは推察できないものなど、一人の仕事とは思えない遺体ばかりだった。
「どういう事?」
勇気は真子に聞くが、ちょっと見当がつかなかった。
「敵がいる、って事だぜ…」
良治は、逆にアドレナリンが分泌されたようだった。
「5人ぐらいかな?」
ユリコは冷静に敵の数を分析する。
鋭利な刃物を使うもの、力で千切ったような物、死因の判らないもの、身体に幾何学的な穴が開いているもの、苦しみ悶えて死んだようなもの、と分類すると、確かに5人のようにも見える。
「しかし、今まで生きていた、と考えるとおそらく皆、影繰りなんでしょうが、これだけの影繰りを倒し続ける、と言うのは尋常な力量じゃありません…」
真子は唸った。
ゾンビがいなくても、危険はいっぱいなようだった。
「先の方に、なんかいる!」
福が言った。
例の、存在は判る、という福独自の感知らしい。
「避けた方が利巧でしょうけど、ペペの方向に向かいたかったら前進するしかありませんね…」
どの道、新宿通りが崩壊した穴なので、縦に長く出来ている。
横に行こうとしても、それほどのルートは無かった。
福の予見した方向にしか、進み得ないのだ。
勇気も変身させて、6人は臨戦態勢を整えながら前進した。
少し歩くと、微かな音が聞こえてきた。
どうも、誰かが誰かと戦う音のようだ。
と、視線の左側にせり上がったビルの残骸の上に、トカゲのような男が現れた。
口が横に突き出し、太い腕には巨大な爪があり、太い尻尾が第3の足のように伸びている。
そのトカゲマンが、確かに見えない敵と戦っていた。
トカゲマンのスピードは早い。
素早く走り、蹴り、爪を突き出す。
が、見えない敵は、どう見ても強力そうなトカゲマンの攻撃をいなし、転戦を続けるようで、すぐビルの影に見えなくなった。
「今の、どっちが敵なんだ?」
勇気が聴くが、誰も返答は出来なかった。
しかし、共闘できる方がいるのならば、そちらと共闘すべきだった。




