80戦い
誠は、少女の打撲傷を少しづつ癒していく。
ただし、自分を守ると言ってくれる二人の子供、小学生らしい変身ヒーローと中学生風の金髪ヤンキーも心配なので、気は焦っていた。
ここに来るまで、何度かスマホも試みているのだが、周囲の電信アンテナが壊れてしまっているのだろう、スマホは圏外になってしまっていた。
ある意味、子供という事は、一番敵組織との関係は考えにくく、その分では信用はしやすい。
が、12月の戦いではユリという、誠と同歳生まれの敵もいた。
だが、今、この混沌とした状況の中では、とにかく現状の目の前の手を結べる仲間と手を結ぶ以外なかった。
問題と言えば、今、誠の首には賞金がかかっていて、誠を血眼で探す影繰りもたくさんいる、という事ぐらいか…。
誠はまだ、何故新宿にこれほどの影繰りが集結しているのか、に気が付いていない。
Aの破壊工作により、新宿に巨大な陥没事故が起きた、としか理解していなかった。
だが、ただ陥没事故のためにドールマスターが子供だましの恐竜ショーを見せた意味は今でも疑問に思っている。
意図のない破壊工作などする組織ではない。
彼等は、ただの愚かなテロルなどを敢行し、勲章のように宣言する野蛮人とは一線を画しており、精密に計算された大胆な破壊活動を行うが、必ず目的は別にあった。
12月の事件も、誠も全貌を理解したわけではないが、意図の通りに全ての行為を完遂したはずなのだ。
今、生存のために目の前の争いに力を注いだにしても、Aの意図、というものを探らなければ、また12月の事件のように次々と状況を変化させられて、ミキサーの中の食物のように驚き惑っているうちに、必要な物を手に入れたAにまんまと逃げられる、事になりかねなかった。
だから常に謎を頭の中にしっかり捉えて、考え続けなければならない。
なぜ、新宿にこんな大穴を開けなければならなかったのか、と…。
一般人を巻き込むのは、彼らにしてもリスクのはずだ。
それだけ世界の包囲網がAに注視するだろうし、それで得をするような政治団体とはAは違うはずだからだ。
誠を取り囲んでいた3人の男たちは、じりじりと誠に向かっている。
残念ながら、彼らは偽の花にまんまと引き寄せられている哀れな紋白蝶なのだが、しかし誠のガーディアンが、戦隊ヒーロー姿の小学生では、仕方がない。
3人でかかれば、彼の得意のスピードも、さして効果を発揮しない、とでも思っているんだろう。
横から、金髪ヤンキーが援護に向かっていてくれているが、いかんせん彼も小柄であり、さしたる脅威とは3人の男には思えないようだ。
こういうことをAは望んでいたのか、と考えるが、それは簡単に否定できた。
カオスの中に人間を投げ込んでいるのは、Aの目的としては文学的に過ぎていた。
もっと物理的な利益が無ければ、とても新宿地下に1キロに及ぶ大穴を、日本国家に察知されずに掘り、人を集めて爆破する、収支が合わない。
必ず、彼らは何かを求め、今現在も利益を上げているはずなのだ。
ただAの求める利益が、人間個人としては考えつかない規模の鳥視的目的を持っているので判りづらいだけなのだ。
「よし、治った」
誠は、気を失ったままの少女を、ゆっくり土の上に寝かせた。
本当なら地上まで運びたいが、これだけのギャラリーがいては、誠の正体が露見しかねない。
小田切誠とバレた瞬間、ここにいる5人全員が、誠の敵になりえるのだ。
「よし、姉ちゃん、俺と一緒に来てくれ!」
「それは無理だな!」
と、紺のコスチュームの男が、立ち上がる。
男の左右に、二匹の虎が、すう、と姿を現した。
どうやら影の虎、を操る影繰りだったようだ。
「待ちな!」
金髪ヤンキー少年が、男の良く手を塞いだ。
戦隊ヒーローが誠の手を引くが、そこに二人の男、60近い白髪交じりの頭の、背の高い鼻髭男と、まだ20代に見える、やや背は低めだが、そんなに身なりが悪い訳ではない男が、立ち塞がった。
「へへ…、姉ちゃん、マブイじゃねーか。
小父さんと遊んでくれよ…」
と白髪男。
一方の若者は、ただゴクリ、と唾を飲む。
もしかしたら、僕も美鳥さんをあんな目で見てたのかな…。
そう思うと、恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだが、でも、たぶん若者の態度は少々度が過ぎている様子だ。
誠は小柄だが、女装してみれば普通の女子程度の上背はあるハズだ。
少しは体を鍛えていて、筋肉だってあるハズ、と思うのだが、むしろ多少筋張っているのが好み、という事なのだろうか?
誠は、颯太を自分の体に纏っていく。
と、戦隊ヒーローが、三角定規の光線銃を、いきなり若者に発射した。
若者は電気に撃たれたかのように、吹き飛んだ。
が、それが合図になって、鼻髭の老人が子供に飛びかかってきた。
誠は、ただ颯太に身を任せていた。
美少女JKは、滑るように男の前に走り込むと、見事な回転踵落としを決めて、老人の顔面を打ち砕いた。
「なんだ、姉ちゃん、強いんだな」
へへ、と笑う戦隊ヒーロー。
背後から、おーい、と金髪ヤンキーも走ってきた。
「君も誰か、怪我人の知り合い?」
誠が聞くと、
「いや…。
俺、兄ちゃんを探しているんだけど、全然見つからないんだ。
一緒に連れてってくれよ」
「お前、強いのか?」
問う戦隊ヒーローに、誠が、
「一瞬であの虎の男を倒したの、見たよ。
君のその力は?」
「ああ。
俺、福って言うんだ。
この世の全ての魚の毒、って言うとオーバーだけど、俺の知ってる全ての魚の毒を操れるのさ。
毒マスターと呼んでくれ!」
屈託なく、少年ヤンキーは、金髪リーゼントで、笑った。




