ヤバイ…。
小百合は、子供たちを路地の脇に集めた。
「みんな、よく聞いて。
あの恐竜は影繰りが作っている、悪い恐竜なの」
え、と樹怜悧が息を呑んだ。
「あれは砂か土で作られたもので、影繰りが動かしている」
とハマユも語った。
「なんのため、そんな事をするんだ?」
勇気は首を傾げた。
「見てみな」
とユリコは人混みを指さす。
「沢山の人を集めて、何かしようとしているんだ!」
小学生たちは息を呑んだ。
言われるまでは自分たちがアガっていたせいで、周りまでは見ていなかったようだ。
だが、大量の人間が、今や皆スマホを掲げて、恐竜の姿を撮影している。
「大変だ、何も知らない人々が!」
山田義郎も叫んだ。
「戦わなきゃ!」
言った五人だが、その恐竜に向かってスケボーに乗った男性が突っ込んでいった。
その背後に大柄な男も全力疾走している。
「誰か動いたようだな」
ユリコは呟いた。
急いで新宿通りに向かう事になり、カブトと川上は女装を諦めた。
誠と同じ学校風の男子制服を着こんだ。
「まぁ、それが無難でしょうね」
美鳥は内心、ホッとしたようだ。
「でも僕だけが、なんで…」
誠にしてみれば、これじゃあ罰ゲームのようだ。
「誠ッち、よく似あってるぜ」
川上は、からかうようでも無く言った。
「あんたが、賞金なんてかかるほど恨まれてるんだからしょうがないでしょ」
ピシャ、と美鳥が言う。
「いやぁー、でも誠、足が綺麗だな…」
カブトまで言い、美鳥は無造作にスカートをまくった。
「ちょっと!
何するんですか!」
「完成度が高いの、それともあんた、小さいの?」
フフフ、とレディは自分もスカートもまくり上げ、
「ほぼ判らないだろうが、アンダーパンツを履いているのだ。
自然なウェーブを描ける仕組みだ!」
自慢し始めた。
「ちょっと子供たち、行くわよ!」
どうもハニーちゃんと、瘦せた男性、日蔭さんも一緒に行くつもりのようだ。
誠は戸惑うが、レディが、
「この人たちも影繰りなんだ。
普通のコスチュームに見えるだろうが、動きやすくかなりの衝撃にも対応する格闘上等の戦闘服なんだぜ!」
ほぅ、と誠も感心するが、しかし足は普通に素足だった。
釈然としないものを感じるが、文句を言い出す空気では無さそうだった。
しぶしぶ誠は従ったが…。
「誠…、どうも、本当に大ごとみたいだぜ…」
颯太が誠に囁いていた。
「影だな…」
良治でもそれは判る。
「でも、何のために?
あんなの全然、意味が無いよ?」
ユリも戸惑う。
何十トンもの土砂を動かすのは凄いパワーだが、これでは遊園地のアトラクションと何ら変わりがない。
「たぶん影だと気が付いた影繰りたちを集めるのが目的だな。
ほれ、3人、突っかかってる奴がいるぜ」
渡辺龍たちが恐竜に戦いを挑んでいたが、どうも捗々しい結果は見られないようだ。
まさに生きたサンドバックを叩いているのと同じようなものだった。
「ユリ、虫を出してみるか?」
バタフライは聞いた。
もしかすると、ユリの虫ならば、この手の敵には効果がある可能性があった。
「影を縫わないで?」
「そーゆうこった」
無論、影繰りは影を最小限にコントロールして、感知されないように使う術も磨かなければならない。
だが、コントロールはなかなか難しい。
「やってみる…」
とユリは奮闘を始めた。
明治通りの向こう側が大群衆で埋め尽くされているのが、誠たちにも見えていた。
「何の騒ぎだ?」
レディの問いに、瘦せた日蔭さんは、
「恐竜だって言うんだよ」
とさっきの話を繰り返した。
「なにかのパフォーマンスかね?」
暢気にカブトは言うが、
「影の臭いっす。
これは相当強いっすよ!」
川上は緊迫した声を現す。
「君子危うきに近づかず、って言葉、あんたたち知ってる?」
美鳥は、やや諦め加減に聞いた。
誠は大真面目に、
「意図が問題だと思うんです。
何故影繰りが人を集めているのか、意図が判らないのが不気味だ…」
話ながらも7人は、通りを渡って人並に揉まれていった。
「戦ってますね…」
誠は、空中の颯太と視界を共有して人垣の先が見えていた。
三人の男が恐竜を何とかしようとしており、そこに…。
なにか、ロボット的な物が、戦いを挑もうと別方向から近づいてきていた。
背の高さだけならいい勝負なのだが、こちらは純然たる影能力らしい。
何十トンもの土砂に戦いを挑めるパワーがあるのかは疑問だった。
ユリは、影を纏わずに何とか1匹の、1ミリに満たない虫を出現させることに成功した。
「良治、虫を撃ち込め」
ユリの虫が恐竜の元に歩いていくのには何時間かかるか判らなかったが、良治のナイフに乗っていれば、一瞬で恐竜まで飛んでいける。
ユリの虫が、ノタノタと良治のナイフに乗った。
虫がスタンバイするや否や、良治は100メートルは離れた恐竜にナイフを撃ち込んだ。
「誠、これ、ヤバいかもよ…」
颯太が空中で地面を見下ろしていた。
颯太の視界が、誠にも見えた。
誠の感知能力は、とんでもない事実を誠に見せていた。
これは…。




