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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
77/220

75渦中

「うわぁ!」


真中勇気は、その真っ黒いケモノを見上げて、少年らしい歓声を上げた。


「ほら、走らないの…」


橘小百合は小学生を追いかけて、息を荒げた。

子供の動きは突発的で、予測ができない。

ハマユは保母になるのが夢だと言ったが、これはキツイ仕事だ。


小百合はやはり、地道に通信高校へ入学する資金をバイトで稼ぐのが無難そうだ。

お母さんも出してくれるとは言っていたが、自分の不始末で首になった以上、入学金だけでも自分で稼ぎたかった。


とはいえ…。


背後で樹冷涼も息を飲んでいる。


夢の恐竜を眼前にした小学生は、自然にアガっていた。


「お姉ちゃん!」


愛梨ちゃんは怖がってハマユに抱きついているが、れいなちゃんは男の子たちと共に前へ出て行っていまい、小百合とユリコで必死に押さえた。


無論、これは子供の夢の中の優しい怪獣などでは有り得ない。

SNSで今日、新宿に集まった影操りの目論みに間違いは無い。


ただ…。


小百合とユリコは視線を交わした。


何の意味があって、こんな目立つ事をしているのか…?


ジョークなどである訳が無かった。

これは影操りをあぶり出す罠には違いない。


ただ…。


この巨体な恐竜を現出させる力はかなりのものだ。

たぶん素材は砂とか泥なのだろうが、それでさえトラック一台ではきかない何十トンもの無機物を獣の姿を維持させながら動かしているのだ。


パワーとテクニックを同時に備えた、強い影繰りなのは一目瞭然だ。

それが何故SNSにも流れてしまうような愚かな…。


SNS…!


まさか、わざと複数のSNSに流すためにこんな事を?


小百合は愕然とした。


この影操りは、意図してSNSを利用し、近場の影操りを残らず新宿に集めようとしている!


いや、新宿東口の、極めて狭い範囲の中に何千人もの影操りを集めて、何か想像もつかない災厄を引き起こそうとしており、そのための撒き餌がこの恐竜だった。


しかも問題なのは、この恐竜は影操りではない素人にも見えており、影操りの何倍もの人畜無害の人間たちをも、容赦なく影の戦いに巻き込もうとしている、ということだ。


そんなことをしたら影の存在が世間に知られてしまう。

何の力も持たない人間に混じって、いや、擬態して、法律では立証できない力を持つ者たちが、何食わぬ顔をして隣人のふりをして心の中で笑って生きている。


それが露見したら、世間はどのような恐慌状態になるだろうか?

人間に影操りを見分ける方法は皆無なのだ。


倒さなければ…。


小百合は焦りながら思った。


自分一人では無理だった。

だがユリコもハマユも、子供を抱えていた。


「勇気君、ちょっと聞いて…」






渡辺竜が大男に聞いた。


「あんた、あれを倒せるか?」


大男は唸り、


「俺の剣はコンニャクでも切れるが、泥や砂を切れるのか、と聞かれたら即答はできないな。

奴が固形物でさえあれば、切るだけなら容易いが、それで倒せる、ってもんじゃ無さそうだしな…」


「アイチ、あいつを壊せるか?」


坊主頭のスポーツウェアの男は腕を組み、


「ナベ龍!

もし、そいつと組むって言うのなら、名前くらい聞いとけよ…」


影操りにとって力を見せる、という事は、攻略の糸口を見せる、という事だ。


「名前か…」


大男は周りを見渡すが、恐竜のため通行止めになった新宿通りの路傍には石焼き芋のトラックが止まっていた。


「俺は…、薩摩…芋之助だ…」


「なんだよそれは!」


と、アイチは怒るが、渡辺龍はまあまあ、と宥める。


「どのみち、あれをあのまんまにしちゃあ、影操りは生きずらくなると思わんか?」


む、とアイチは黙る。


「判ったよ、全くお人好しだな、あんたって人は!」


叫び、アイチはスケボーに飛び乗ると、道路を滑った。






「ほぅら、よく似合うわよー♪」


天才縫製家ハニーちゃんにより、誠たちは女子校生の制服を着込んでいた。


レディはさっさとオーダーした、レディにしてはおとなしい赤のドレススカートに着替えてせっせとメークに励んでいる。


誠はすんなり着替え終わったが、川上とカブトは体が大きいのであちこち直していた。


「誠、こっちに来なさい!」


店に入ってから、ずっと怒っていた美鳥が誠を招き、レディの隣に座らせる。


「えっと、何を…?」


「こんな髪じゃ女子には見えないわよ。

仮装じゃなくて変装なら、顔も女にしないといけないわ」


床屋のようにエプロンをかけられ、髪を洗われ、女物の香料の整髪剤をつけられた。


そのあと美鳥は、そこへら辺の化粧道具を勝手に使い、誠の瞼に何かを塗だす。


「わ、何を!」


「馬鹿ね、アイプチぐらい女子校生なら当たり前よ!」


睫毛にカールをかけられ、アイラインを入れられて、髪を仕上げられる頃には鏡の前には中々愛らしい少女が座っていた。


「誠、化けたねー♪」


カブトも喜ぶ。


その時、店に痩せた男が飛び込んできた。


「ハニーちゃん!

新宿通りに恐竜が出たってさ!」





「そうか、あの日本刀少女がユリの虫にやられたか…」


バタフライは慌てて明治通りから駆け付け、老紳士が去った理由を知った。


「しかし、何者だろうな?」


良治も気にしていた。

奴らは、今日は忙しくなりそうだから君らのような本職には消えてもらう…、と語っていた。

つまり奴らは、SNSで発進した張本人か、少なくとも今日ここで何かをしようとしている連中、という事になり、またバタフライたちを本職と見分ける程、彼等もまた本職、という事でもある。


「恐竜が暴れてるらしい!」


影に覆われているバタフライたちの横を、人々が新宿通りに向かって走っていった。


「なんか騒いでるよなー」


このまま突っ立っていても埒が明かない。


「ちょっと行ってみるか」


バタフライたちは敢えて影を消して、人混みの中を新宿通り方面に、伊勢丹の脇の路地を進んでいった。

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