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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
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73激闘

ユリの姿を、真っ赤な革の服を着た少女が捉えていた。

腹にはナイフで刺されたような穴が開いている。

ナイフ自体は、影の能力なのですぐに消えたが、腹部の傷は深い。


だが少女は意に介してはいなかった。

武士はそもそも、最後には腹を切るものだからだ。


彼女のその考えは、微妙に間違っているのかもしれなかったが、彼女は師からそう習っていたし、武道と共に、いや剣術修行の一環として、彼女は正しい切腹方法も、習っていた。


負けたなら、腹を切るのだ。


常に彼女は、死を背負って戦っていたのだ。

だから彼女は、目の前の幼げな金髪少年が気に喰わなかった。

2人の男に、まるであやされる様に毒気の無い笑顔を爆発させている少年が、意味もなく憎かった。


戦いは、そんなものではない!


そういう事だ。

死を常に思い、腹の切り方も常に心得てこその影繰りだ。


だが…。


少女は、顔は、その女性的な丸さを鉋でそぎ落としたようなシャープな顔の裏で、細く笑った。

今、この切っ先が、お前のフニャフニャとふやけた体を、鋭角に切断するだろう…。


だがその前に、己の出血はどうにかしなければならなかった。

血を失って敵前で倒れるのは、武士の最も恥じとするところだ。

倒れるのは、ことを完遂してからでなくてはならない。


彼女は、革の上着をめくり、ズボンを下げて傷を剥き出しにした。


血が吹いていたが、どうという事は無い。

動脈は外していた。


彼女は即座に腰のポーチからソーイングセットを取り出すと、糸と針を取り出し、痛みなど感じないかのように瞬く間に傷を縫った。

軟膏を塗り、油紙を当てて、傷の治療は1秒とかからず終了した。


これで大丈夫だ。

戦える!


少女は立ち上がり、再び剣を構えた。


今度は金髪の少年が相手だ。


相手が誰だろうが、武士の仕事はいつも一つ。

敵を切るだけだ。


彼女は、もう出し惜しみをするつもりは無かった。


最初の一足が、空気を捉えた。


地上30センチの高さで、彼女は空気を踏みつけて浮き上がると、一足ごとに高度を上げ、空中を駆けた。


金髪少年が、緑色の目で、驚いたように見上げていた。


「素っ首、もらい受ける!」




花園神社は、大都市新宿のど真ん中に建つ鉄筋コンクリート造りの神社である。

昔、新宿ゴールデン街から三丁目、二丁目の狭い範囲は青線と呼ばれ、特殊飲食店が並んでいた。

端的に言えば、今、飲み屋がひしめいている1階より上の階は、風俗店になっていたのだ。


青線という言葉は、法律的に境目、つまり法が及ばぬ場所、を指す。

ここは敢えて、法の外、とする事で性的接待を黙認してきた場所だ。

むろん今でもそういう場所はあるにはあるが、それ以外の健全になった現代でも、ゴールデン街の街並みや三丁目二丁目の、狭い雑居ビルが折り重なるように建った一帯はどこかしら尋常ではない空気を湛えており、そのために近年は外国人客が急増している。


もし土地に、なにがしかの匂いのような物があるとしたならば、確かにこの場所は江戸の昔よりの、独特の匂いを発している場所であり、また花園神社は、まさにその土地を抱くように慈しんできた独特な神様なのだ。


その参道は、まさに都市部から神域に数十メートルの内に変貌するダイナミックな機能を持った細い道だ。

この、幾ばくかの神木に囲まれた鳥居を過ぎれば、鉄筋の、数十段の階段の先、花園神社が独特の威容をもって静まっている。


青線が撤廃されたのちも、花園神社では見世物小屋が立ったり、前衛演劇が興行されたり、普通の神社とは、ある種別種のオーラを放ち続けてきた。

清濁併せ吞む、というような独特の気風を持つ神社なのだ。


バタフライは、老紳士に顔を向けながら、多くの参拝客を避けつつ、背面滑りで鳥居の内部を進んでいた。


さっさとスピードで凌駕し、攻撃に転じようと目論んだバタフライだったが、老紳士はまるで踊るように走りながら、鞭を放っていく。


こりゃあ只者じゃねぇな…。


さすがのバタフライも舌を巻いた。


影を研鑽して多様な戦いができるようになる、とか経験を重ねて早い動きにも対応ができるようになる、という事はよくある。


だが、現実にバタフライの速度についていく、という、スピードを上げる、という技術は、現実には一番難しい事だ。


現代ではスポーツ科学も高度なものとなり、合理的に足が速くなる、筋トレなり方法論はあるにはある。


が、戦いながら、だとか、ましてや、一般人を避けながら、の影の戦いにおいて、老境の人間がスピ-ドスケート並みの速度を持つバタフライに追いつかないまでも離されない速度を維持して、一般人の間をすり抜けて走る、というのは神技に近い。


たぶん、そもそも高速移動を得意としている影繰りだったのだろうが、それにしても。


あんな爺にこのスピードを出されちまうとはな…。


場所の選択を誤った、というしかなかった。


障害物の無い高速トラックであったなら、バタフライはこの老紳士をブチ切る速度は出せる。

だが参拝者の多い花園神社の境内では無理だ。


道路に出るんだったかな…。


後悔しつつ、だがバタフライも、プロの影繰りである以上は場所を選んではいられなかった。


このまま追わしておいて…。


徒競走には無くて、スケートにはあるものがあった。


ターンである。


スケートは、そもそも軽やかに回転し、急速な方向転換が可能なスポーツなのだ。


バタフライは背面で走るのを止め、前を向いて走り出した。

奴に付加をかけ、攻撃が疎かになった瞬間。


ターンして一撃で葬ってやる!


バタフライは、刑務所上がりの坊主頭で、獰猛に笑った。

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