71新宿東口
日本刀の男が、ぶらりと外に出たので、アイチと渡辺龍も続いて外に出ることになった。
新宿アルタから続く東口駅前の大通りだ。
週末には歩行者天国になる道路だが、平日の今日は交通量の多い新宿通りである。
だが。
現在、そこに車は走っていなかった。
「ありゃあ一体…」
呆然とする日本刀の男に、渡辺龍が、
「たぶん土じゃねぇかな?」
「土って言うより、もう泥だよな…」
アイチも言う。
ヘドロめいた、ちょっと臭う土の塊が、体高5メートルほどの、雑なチラノザウルスのような恐竜を造り上げているようだ。
影は、泥に形を与える能力らしかった。
ずしん、と重い足音を響かせてゆっくりと恐竜は動いていくが、足跡には黒々とした泥が、べったりと残っていた。
影は一般人は見ることは出来ないが、しかし泥は当然、見えてしまう。
「弱い力じゃねーが、しかし、何で誰もが見えるような騒ぎにするんだ?」
アイチが唸る。
影繰りは証拠がないために現行法では裁けない。
が、とにもかくにも映像記録に残ってしまう物なら、それを行った個人が立証できるものならば、罪に問える可能性がある。
むろん可能性の話ではあるが、証拠は残さないに限るのは全ての犯罪において共通だ。
「しかし、特に犯罪はしてねーんじゃないか?」
日本刀の男の反論に渡辺龍は、
「道路を一つ、通行止めにしているんだ。
道交法に抵触するだろう…」
と教えるが、アイチが、
「ま、犯人が断定できれば、だな」
恐竜見たさに多くの人が集まってきていた。
おそらく何千、何万という人間が、新宿通りに集結しつつあった。
「んー、なんか思ったよりはマシなようだな!」
ユリコはいちごクレープを頬ばって、言った。
「うん、なかなかだ!」
と光が丘の少学生、勇気がバナナチョコを食べる。
「凄く美味しいわ」
ピンクの愛理ちゃんが、プリンミックスを絶賛した。
緑の樹怜悧はキゥイ入りを食べ、口にクリームを盛大にはみ出させて、慌てていた。
大柄な山田義郎は、ハムチーズをほとんど食べ終わっている。
れいなちゃんはクールにチョコを食べている。
れいなと同じ、チョコを選んだ小百合は、少し溶かした板チョコをそのまま入れたオリジナルクレープに、
「驚いた。
これ、旨いよ」
とハマユに差し出した。
パクン、とハマユは、食べて「旨っ!」と言い、自分のフルーツミックスを小百合に食べさせた。
と、樹怜悧が、
「今、恐竜がいる、って叫んでなかった?」
とユリコに言うが、ユリコは樹怜悧の頬のクリームを舐めとって、
「うん、面白そーだな、見に行こうぜ!」
いつの間にか、ユリコのテンションも上げってきたようだ。
「兄貴、なんか騒いでるよーだぜ」
マルイから横断歩道を渡り、花園神社側に歩いて来ていた良治たちだが、周囲の人々が盛んに、恐竜、怪獣、等と叫んで走り出すのを怪訝に見つめた。
「ま、都会はいつもお祭り騒ぎなのさ。
それよりどうにかして、お…」
バタフライの言葉を遮って、鞭のような物がバタフライを襲った。
が、軽く交わして、バタフライが振り向くと、髪に白いものが混じった初老の男、スリーピースのスーツを着こなし背筋の伸びたナイスミドルが、ニタリと笑った。
「失礼、今日は忙しくなりそうなのでね。
手早く君たちのような本職は消えてもらうよ」
良治はナイフを浮かべるが。
赤い革の服を着た少女が、すらり、と真剣を抜き払った。
すぐそばに交番があるのだが、少女は影を纏っているので警察官は気が付かない様子だ。
ユリは、虫を発生させようとするが。
「あら坊や。
君は動きを止めさせてもらうわよ」
あずき色の落ち着いた着物を着た老夫人が、さ、と扇子を開くと、ユリは、自分が金縛りにあっている事を知った。
ユリを防がれちまったか…。
バタフライは、鞭の紳士を見つめながら、どう得意のスピード戦に持っていくか、考えていた。




