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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
72/220

70渦中

誠たちは甲州街道沿いに歩き、あまり賑やかではない薄暗い路地に入ってきた。

細い道の左右にビッシリとビルが建ち、不思議なほど誰も歩いていない。


「ここだ!」


とレディは訳知り顔で狭いビルに入り、階段を四階まで上がる。


薄汚れたビル、という印象だった。

階段のプラスチックタイルは所々割れ、コンクリートが剥き出しになっている。

蛍光灯が青白い光を、すぐビルが隣接しているため明り取りの意味の無い窓からの、ぼんやりした日差しと競わせていた。


壁の色はグレーとも黄土色ともつかない、形容しがたい色だ。

もしかするとグレーの壁が、何十年間もの汚れを付着させた色なのかもしれない。


1階にはドアは無く、2階3階はシャッターが閉まっていた。

その4階に、猫の形に切り抜いた板片を艶のある黒色で塗り、オレンジの蛍光カラーでopenと描いてある。


レディは問答無用で手作りDIY風の、板を貼り付けて作った引き戸を開けて、


「ハニーちゃん!

久しぶりー!」


と楽しげに中に飛び込んだ。


「ちょっとレディちゃん!

あんた、最近顔見せないと思ったら、なに、ミオさんと別れちゃったの!」


美鳥は何げなくレディの後ろから店? に入り、フリフリの露出度の凄いバニー衣装やメイド服、学生服的なジャケットとスカートなどに溢れた狭っ苦しい店内に奥に、プロレスラーかラクビー選手のような身長の、筋骨隆々とした、しかも肥満している女装の男を見て、思わず固まった。


その美鳥を押しのけてカブトが店に入り、


「誠、誠!」


と、おそらく全裸で着る用の派手なエプロンを手に取って誠を呼ぶ。


「着ないよ。

馬鹿じゃ無いの!」


誠も、店の雰囲気に、微かに自己防衛の怒りを撒き散らしながら入店し、川上が後に続いた。


「ハニーちゃん、お久さ!」


レディは何の抵抗もなく、190センチ近い身長の上、関取並みに肥満したハニーちゃんのピンクの毛糸編みの腹にハグをするが、小柄なレディの両腕はハニーちゃんの胴体の半分にも達していない。


「皆、これが天才縫製家のハニーちゃんだ!」


ハニーはニッコリと、ズボンを履いているのだがスカートを左右の手で持ち上げる動作をしながら、横に体を傾け、


「よろしくー」


と骨格の強そうな顔で微笑んだ。


美鳥は、未だ戸口で石化していた。





「なあナベリュウ。

俺たち、なんであいつを付けてんだ?」


アイチがABCマートの婦人靴の棚の影に隠れて、あの日本刀の男の動きを眺めながら、隣でハイヒールを持ち上げ、色々な角度から賞味している渡辺龍に問いかけた。


「あいつが強いからだよ。

あの強さは尋常じゃない。

俺の探偵の勘は、あいつは何かをやらかすか、何かをやらかされる、と告げているんだ」


その何でも切れる影の剣を操る大男は、真剣な表情でスニーカーを見つめていた。

見るところ、スポーツ系の靴が欲しいらしいが、ゴッついバッシュにするか、もう少しソフトなスニーカーに抑えるのかで、かなり真剣な煩悶を繰り返しているようだった。


「しかし、あれは絶対賞金首じゃ無いだろ?

首は子供らしいじゃないか?」


渡辺龍は、今度は真っ赤な薔薇の飾りのついた靴を持ち上げ、


「そうだ。

が、今日の新宿の様子は、ちょっとおかしい。

さっきから偶発的なバトルが幾つも起こり、俺たちの見ていない場所でも影の気配が散見されている。

つまりな、今の新宿は大噴火の前の小さな爆発があちこちで起こっている状況なのさ。

あの男は、大噴火の時、渦中には絶対いるはずだ。

だから、あの男を付けていれば、俺たちもまた渦中にいられる、って訳さ」


「あんた、いつもいつも、よく勘だけで行動できるよな?」


渡辺龍は、フッと笑い、


「だが、俺の勘は外れたことが無いからな」


アイチは常々、渡辺龍の勘が外れないのは、犬も歩けば棒に当たる、的な確率論なのではないか、と思っていた。

確かにずっと張っていれば、いつかは当たるのには間違いは無いのだが、しかし甚だ効率が悪い、ような気もするのだ。


と、店の外でなにやら歩行者たちがザワついているのが感じられた。


「おいナベリュウ、なんか変だぞ」


「バァーカ、影だったら一般人が騒ぐわけはない。

芸能人でも歩いてんだろ」


渡辺龍は、相変わらず、高級女性靴を熱心に鑑賞していたが。


「恐竜が!」


外で女の叫びが聞こえ、渡辺龍もアイチも、そして日本刀の男も、えっ、と思わず顔を上げた。

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