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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
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フグ

接近戦の最中に相手を45度、回転させると言うのは、かなり悪質なトラップだった。


例えば真正面の敵に対して、ガッチリと両腕で顔をガードして固めていたとしても、45度ど回転させられては、丁度、腕と肩の隙間から顎が見える位置になる。


90度の半分、三角定規の二等辺三角形の一辺だ。


この一瞬は、決定的な隙になる。


その隙間に、まだユリの細い未成熟な顎に向かって、優男山本の革靴の先端が突き刺さる。

白いエナメルの、なかなか履くのに勇気がいりそうな靴だったが、同時に固く、鋭い凶器にもなりそうな靴だ。

その尖った先端がユリの顎に接触するか、と、思った瞬間。


山本の、おそらく美容室で作られたのだろう、なだらかにウェーブした前髪に、巨大な拳が突き刺さった。


空手の正拳突きだ。

何万回も、主に人間の顎を砕いて鍛え上げられた、バタフライの拳だった。


「よし、上手いぞ、ユリ!」


岸という、もうすぐ中年、というような微妙な年齢の作業着の男と、革ジャンの吉田は、ユリの虫に貼り付かれて、路面に正面衝突していた。


相手の動きを奪うユリの虫の強さは、むろん大量にたかられて命を失う事にもあったが、1匹であっても、体を動かす事も受け身を取ることすら出来ずに倒れる、地面に直接ぶつかるダメージも決して軽くは無い。


柔道には、力一杯担いで相手を投げつける背負い投げのような大技もあったが、ほんの少し足を引っかける、というような技もある。


畳ならともかく、それが路面であった場合、そういった崩す技も充分大きなダメージを与えるものだが、受け身が取れず身体が動かない、となると危険性は桁が違う。


革ジャンの吉田も、作業着の岸も、どちらも血まみれになっていた。


「ユリ!

お前の根性はスゲーぜ!

自分の相手には虫を使わずに、俺と兄貴の敵に虫を飛ばすなんてよ!」


と良治がユリを担ぎ上げて、頭を擦って褒めちぎる。


「アハハ、絶対守ってくれるって、信じているからだよ!」


ユリは笑ったが、彼ら3人を見つめている複数の視線がある事には、まだ気が付いていなかった。




「あんた、自分の立場を弁えなさい!」


美鳥が誠を叱る。


何しろ、誠には5000万の賞金がかかっているのだから、当たり前だ。


「しかし、死人を出したら大騒ぎになるでしょう?」


誠は、日本刀の大男と別れて、レディの行きつけがあるという新宿三丁目に向かって歩いていた。

メインストリートからは随分外れた大通り沿いの道だったが、居酒屋、飲食店、ブティックなど雑多な店が、賑やかに軒を連ねていた。


「殺さない方が良い、って美鳥が言ったんじゃ無かったっけ?」


とカブトが突っ込む。


「誠が治療する、と言うのは別の話よ!

もし治療能力がある事がバレていたら、即座に身元が判るわ。

そんな奴は滅多にいないんだから」


影能力は主に自衛手段として発現することが多いため、どうしても攻撃的な能力が多くなる。

強い動物になったり、単純に力が強くなる、等という能力も普遍的に多い。

カブトやレディにしても、美鳥にしても攻撃的な事には変わりなく、むしろ川上の聴力が発達する、などという能力の方がイレギュラーなのだ。


「ちょっと待って!」


不意に、川上が手を上げた。


「道の先で、影の気配がする…」


誠たちにはピンとこなかったが、美鳥は、


「そうね。

あなた、なかなか感覚が鋭いわね…」


何かに気が付いたらしい。


見ると、ジャージ姿の大男と、中学生ぐらいの金髪に髪を染めた少年が、私服のサラリーマン、と言った風の男たちに囲まれていた。


「…影繰りなのか…」


レディが川上に囁いた。


「臭いが影繰りっす…」


聴覚ばかりではなく、嗅覚も鋭くなってきたらしい。

さっきの戦いが、川上の力を、微妙に引き上げたらしかった。


「両方ともか?」


「そうっす。

影繰りが戦おうとするとき、影を発動する前に、なんか鉄臭いにおいを出すっすよ。

それが双方からしているっす」


誠には、さすがに判らなかったが、


「鉄臭い…、ね。

確かにある種のホルモンを発生するらしいわ。

鼻で感じれば、なるほど鉄臭いのかもしれないわね」


「川上君も気をつけてね。

耳が変形したことを考えると、嗅覚と共に、鼻にも何らかの変化があるかもよ」


誠は注意した。


川上は思わず自分の鼻を撫でたが、今のところ、そういう変化は無いようだ。


私服のサラリーマン三人は二十代後半ぐらい、落ち着いたカジュアルな普段着姿で、薄笑いを浮かべてジャージの男と金髪の中学生をからかっている、らしい。


この2人は、どうも垢抜けない運動着を着ていて、見る限りは地方出身者、という風にも見えたが、今時、どこから来たらこれほど垢抜けないのかは、ちょっと不明だ。


「あの金髪って、もはや漫画にしか存在しないヤンキーって感じだよね」


カブトは楽しそうに囁く。


「着ているジャージ、おそらく学校の指定ジャージなんだろうけど、今時、あの赤は、逆に新鮮だな。

売ってる場所を教えてもらいたい…!」


レディはむしろ、興味を持ったらしかった。

確かに昭和の赤ジャージの配色だった。


「おそらく兄の、あの緑色も最近見ないカラーよね」


美鳥も、すこし楽しくなってきたように話した。


「うるせーお前ら!

兄ちゃんをばかにするな!」


金髪少年が、甲高い声でブチ切れた。


「止めろ福!」


とガタイのいい兄が止めるが、サラリーマン三人に向かっていく。


サラリーマンは笑いながら影を現そうとするが。


男たちは次々と昏倒した。


「なんだ?」


レディの疑問に、誠が、


「毒のようです。

バイタルが異常です。

でも、おそらく死ぬ、という事は無いでしょう」


100メートルは離れているが、誠はサラリーマンたちの内臓を見、血流を測れるものらしい。


兄は、金髪少年の頭を拳骨で殴り、


「馬鹿が!

毒はヤベーって言ってるだろが!」


大騒ぎをしている兄弟にレディは。


「ふくって名前で、毒を操る影繰りなのか…」


「何ですか?」


誠は首を傾げるが、


「下関では、フグの事をふくと言うのよ…」


美鳥が教えた。


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