66拷問
「さぁ、どうなるか見ものね」
美鳥は微笑んだ。
一方、渡辺龍とアイチは、
「おい、奴ら影繰りだとか言ってるぞ!」
と驚愕しつつ、そのまま傍観者を続けた。
影繰りを感知できるという少年は、まるで千手観音のように色々な手を背中に生やした。
その一つ一つは、手というよりも歯医者のアームだ。
歯科用の細いドリルや、研磨する機械、ライトなどが6本ほど並んでいる。
他の5人の少年たちも影を発現させてはいるが、それは何なのか一見では判らなかった。
巨大な男は、ほぅ、とアルカイックスマイルを浮かべて、
「歯医者が好きなのか?」
と問うが、少年はニィと悪い笑いを浮かべ、
「一度、歯医者の野郎の歯を穴だらけにしてやりたくってね」
大男は、驚いたように、
「それは共感できるな…」
クククと歯医者の少年は笑い、そうかい?、と言った瞬間…。
ガバ、と男の左右に立っていた少年2人が男の腕を掴むと、
「岩石化!」
叫んで、少年二人は揃って石地蔵のように固まった。
「なんだ、これは!」
さすがに男も驚いた。
「へへへ、ファッションが違うから一見判らないだろうが、この二人は双子で同じ能力の使い手なのさ!
こうして石化してしまえば、姿は同じでも重さは1人1トン、どんな筋肉馬鹿でも動けはしない。
そして…」
ケケケ、と少年は6本の歯科のアームを動かし、
「痛かったら、右手を大きく上に上げてくださいよ…」
と言いながら、男ににじり寄ってくる。
「おい、馬鹿よせ!
俺は本当に歯医者が苦手なんだ!」
慌てた声を出すが、背後に回った小柄な少年が、瞬間、椅子に変じた。
180センチを超える男は、筋肉質で、おそらく体重も100キロ近くありそうだったが、150センチそこそこの少年が変身した椅子が、軽々と男を支える。
男は歯医者のように横に寝た姿勢になり、そして。
奥に立った肥満気味の少年が、男の頭にピタリ、と手を当てると。
男の頭が動かなくなる。
どうも、触った者の動きを止める的な能力らしい。
歯科の少年は、6本のアームのうちの一つ、歯科ドリルを、キィィィを唸らせた。
誠も、ピクリ、と体が反応する。
あの音を聞くと、どんな人間も自動的に潜在的な恐怖を感じてしまう物らしい。
「うわぁぁぁ!」
大男は、パニックになって叫んだが。
六本アームの一つ、ライトが強烈に男の顔を照らし出す。
影繰りたちは、この突然の拷問に息を呑む。
が、他の通行人には、影を纏った人間の姿は視界から消えている。
誠たちや渡辺龍、その他何組かが唖然と、残酷で恐ろしい歯科拷問ショーを息を呑んで見つめるのみだ。
「どうする…」
アイチは呟くが、渡辺龍は…。
「いや、ヌーヌーで浮かせることは出来るよ…。
でもそれは、浮かせないより残酷な結果を生み出しかねないし…な…」
口の中でドリルが暴れたりしたら、どんな流血騒ぎになるか判らない。
そして、あの拷問少年にとっては、別に男の頬っぺたぐらい、穴が開いたところで、余計に喜ぶぐらいの物だろう。
「しかし、まるでワンセットみたいな影だなぁ…。
ああ都合よく、揃うものかね?」
アイチは苦々しく感心する。
椅子の少年なんか、歯医者の前提が無ければ、ただの人間椅子だ。
何の戦闘力もない。
そんな影繰りも見たことがないが、しかしこのパーティでは、本当に重要なピースになる。
二人が感心する中、ドリルは、身の毛もよだつ音をさせながら、じわじわと男に近づいてくる。
わざと、ゆっくりにしているようだ。
周りに別の影繰りがいるのも判っていて、それに対しては、まだ力が判らない一人の少年が、厳しい眼差しで見つめている。
その中で、歯科の少年は大男の歯を、ボロボロに潰そうと、奇怪な喜びの笑顔を顔に貼り付けて、ジリジリと近づいているのだ。
「駄目よ、誠。
透過で救おう、なんて考えちゃ…。
透過なんて使えるのはあなた一人なんだから。
奴ら、その意味もあって、ああやって残酷ショーを皆に見せているのよ…」
誠は息を呑んでいた。
普通、歯科の情景と言うのは、人目に触れないように個室などになっていて、第三者として見ることは無い。
それが目の前で行われているだけで、これだけ恐怖を感じるとは夢にも思っていなかった。
「ヒヒヒ、トリルで神経を剥き出しにしたら、このピンセットで引っこ抜いてやるよ!」
少年は異様な高揚した声で男にピンセットを見せつける。
「うがぁぁぁぁ!」
男は絶叫した。




