64ニューウェーブ
お約束のように大爆発したトカゲ親父を、小百合たちは茫然と眺めていた。
影繰りの世界において、爆発すると言ったら、リアルに爆死するしかない。
ファンタジーなど入り込む余地のない冷酷な事実だけが、影の世界を縛っているのだ。
が、子供たちの世界観なのか、血が飛び散ったり、肉片が飛散する、というような生々しい事は無かった。
無かったが、どうもこの世から、あのエロ親父が消えてなくなったのは事実らしい。
「これ、どうするよ…」
ユリコも困惑していた。
物凄い破壊力と言わざるを得ない。
あのロボのビームは、子供とは言え影繰り五人分の力だからなのか、とんでもないオーバーパワーだ。
だが…。
彼等をこのまま放置しておいていいものだろうか。
彼等が悪人認定してしまったら、総理大臣だろうが有名アイドルだろうが、一瞬でこの世から消え失せるのだ。
小百合は戸惑ったが…。
「君達、助けてくれてありがとう!」
と、しゃがんでレッドの少年と目を合わせた。
シュン、と彼等は普段の小学生に戻った。
「お姉ちゃんたち、大丈夫だったか!」
正義の炎を燃やした勇気君が、ニッカリと笑った。
この子たちに、現実を教えるのは酷な気がした。
「うん、助かったよ。
あのビーム、凄いね?
使ったのは初めて?」
と勇気君の手を握る。
微かに頬を染めた勇気少年は、
「うん、今までの敵は変身で倒せてたんだけど、あいつは手強かったよ!」
大人げなかった、とも言えるが…。
「俺、勇気ってんだ!」
ロン毛気味の勇気は、一点の曇りもなく笑った。
「僕、矢沢樹怜悧です!」
「あたし、山本愛理!」
眼鏡の男の子がややキラキラネーム気味の樹怜悧君で、ピンクのカーディガンにタイツスカートの女の子、可愛らしく左右の耳の上で柔らかい髪を束ねた、女の子が愛理ちゃんらしい。
「うちは一条れいな」
バスケチームのジャンパーを着て、スリムなブラックジーンズをはいた、愛理ちゃんより背が高く、しゅんとした女の子がれいなちゃんだ。
「僕は山田義郎だよ!」
大柄な男の子は、おっとりした性格の様子だった。
「おまえら、強かったな」
ユリコが、義郎の頭をグシグシと掻き交ぜた。
「で、えー、なんて言ったっけ?」
小百合は少年たちが語ったチーム名のような物を覚えられなかった。
「光が丘少年倶楽部だよ!
格好良いだろ!」
勇気少年が語るほどには、格好良さは小百合には判らなかったが、だが判る事もある。
「光が丘。
そこに皆は住んでいるんだね?」
「そーだよ!」
れいなが教えた。
「それで、今日はどうして新宿にいるの?」
小百合が婉曲に聞き出そうと思っている事を、ハマユがストレートに問い質した。
「悪人がいるからさ!」
勇気が、強気に語った。
「悪人?
今の親父か?」
ユリコが聞くが、違うと樹怜悧。
「賞金がかかった悪人です!
そいつを退治に、僕らは電車に乗ってここに来たんです!」
小百合とユリコ、ハマユは視線を交わした。
「…えっと、おまえら…SNSとか判んのか…?」
戸惑うユリコに大柄な義郎が、
「情報収集だよ!
テレビの悪はすぐ判るけど、現実の悪は情報を集めないと判らないでしょう?
だからこれを入れたんだ!」
キッズ携帯に鳥のマークのSNSアプリが入っていた。
再び、小百合たちは視線を交わした。
この子たちを見過ごすわけにはいかない。
だが影繰りとして戦うには、子供たちは無邪気過ぎた。
さっきのエロ親父は真正面から戦ってこの世から消え去ったが、もっと悪質な大人が上手に手懐けてしまったら、この子たちは途方もない殺人マシーンになってしまう。
人一人、跡形もなく消し去れるのだ。
「ねー、皆。
お姉ちゃんたちもソイツを探してるんだ。
でも、この街には、今みたいな悪い奴らがいっぱい集まっちゃってるの。
君たち、お姉ちゃんたちを守ってくれる?」
小百合の言葉に、少年たちは寸暇なく、
「もちろんだよ!
俺たち光が丘少年倶楽部は、正義の味方なんだ。
そのために神様が俺たちにこの力をくれたんだ。
皆、やるぞ!」
おお、と黄色い声が午前の新宿駅に響いたので、小百合たちは、影を纏って紀伊国屋方面へ移動する事にした。
「え、異常発生しているんですか?」
井口は、美鳥とは別に、浜松町から田町方面に歩いていた。
が、一人ではない。
前園真理恵博士が、興味深い現象を調べたい、と言って同道していた。
「影繰りと言うのは、井口君のように学校で発現する他に、自然現象的に発生することもあるのです」
前園博士は、ショートカットの艶やかな髪を光らせて、丸い眼鏡で周囲を見回した。
「ああ。
誠みたいな奴の事でしょう?」
「彼は完全なイレギュラーです。
全くの偶然に、影に目覚めた子供で、これは影繰りの0.1パーセント、いつの時代もいるのです」
真理恵博士は、薄く引いた口紅を、ぺろり、と舐めた。
「私の言っているのは、昨年の十二月、ムーンライト号事件が起こったときに、あの事件の衝撃を契機に大量発生してしまった、新しい影繰りの事を言っているのです」
「新しい、影繰り…」
なにか禍々しい響きを持っているように、井口は感じた。




