61ドーンファンタジー
ガチャリ、とキリュウは、やけにリアルに両手で銃を構えて、川上に向けた。
小田切誠は正式な公務員であり二等陸士だったので、銃の訓練も受けているが、先日影繰りになったばかりの川上は、まだ銃に触ったことも無かった。
あのリボルバーがどの程度の破壊力なのかも知らない。
だが、親父が持っていた銃より、ずっとゴツくて強力そうだった。
「ちょっと…、あんたは人でなしじゃあ、ないんじゃないのか?」
とりあえず時間を稼ごうとキリュウに話しかけると、オタク男の声でキリュウが喋り出した。
「そうだよ。
だけど負けようとは思っていないさ。
君は思うより、戦闘能力が高かった。
噛みつき、を避け、炎のダンスを防いだ。
だったら2度しか成功していない技より、確実な方法を選ぶわけさ」
影の中で銃に撃たれた場合、どうなるんだろう…?
川上は考えた。
現実の銃では無いはずだから、たぶん影繰りが思い描く通りの威力になるのだろう。
今の状況で言えば、オタク男は必殺技の代わりに、より確実に、と言っていた。
つまり…、即死の可能性のある威力な訳だ…。
逃げなければならない…。
ここで終わりたくないのならば、銃に当たってはいけない…。
だが、ここはオタク男の作り上げた仮想格ゲーの中であり、動ける場所は限られていた。
ゲームの銃だから残弾などなく、無限に撃てる可能性もあるし、広さはせいぜい実戦のリングほどだ。
銃から避け得る、障害物など皆無だった。
避けらなないなら、動くしかない。
完璧に交わせないとしても、急所を避けられる事もありうるし、残弾がある可能性も、勿論あるからだ。
が、キリュウとの距離、およそ3メートル。
銃口は現在、川上の胸に向けられている。
迂闊に動けば、その瞬間に発砲されるかもしれない。
どうする…。
川上の、やや毛が多すぎる頭髪に、汗が流れた。
アクション映画なんかでは、こういう時は相手から上手く話を引き出して、混乱させて精神的動揺を誘う、みたいな流れがあるが、いや実際にこの距離で銃を向けられて世間話なんて無理だろう…。
しかも相手はゲームのキャラだった。
「しかし変なキャラっすね…。
これ、オオカミ人間なんすか?」
不意に自然な疑問が、口をついた。
「ドーンファンタジ-は壮大な世界観が話題となったアクション、ロールプレイングなんだ」
格ゲーじゃないのか…、と川上は驚いた。
「世界中の各種族が、それぞれの戦いを繰り広げる。
だから全てのキャラでエンディングを見なければ、真のエンディングに到達できない。
ドラゴン族とか、巨人族とかは比較的易しいんだけど、人間族やアニマル族は難易度がとても高い。
このキリュウはアニマル族の犬の戦士だ。
これでもレベルアップして、獣人にランクアップした姿なんだ」
昔のゲームにありがちな無理ゲー、クソゲーの類だったらしい。
「それに思い入れがあった、って訳っすか?」
キリュウはクスリ、と笑い、
「当時、近所の中古ゲームショップで100円で売られていたのさ。
子供でも買える金額だ。
中古のファミコンが300円。
それを僕はせっせとやり込んだんだ。
友達なんていなかったから、ドーンファンタジ-が僕の唯一の友達だったのさ」
思いの他、悲しい話のようだったが、川上にも命がかかっていた。
「なんでドラゴンとかにしなかったんすか?」
強いキャラの方が良いに決まっていた。
キリュウが、驚いたことに、ニヘラ、と笑った。
「人間以外で唯一、獣人に進化したキリュウは武器が使えるからだよ。
どんなに力が弱くてもね、引き金さえ引ければ相手を殺せるんだからね、全く飛び道具は素晴らしいもんだ、って僕は感動したもんだよ」
キリュウが、引き金をゆっくりと引くのが、川上には見えた。
ヤバい!
咄嗟に川上は横に飛んだ。
目は開いているべきだ、と思ったが、撃たれる、と思うと思わず目を閉じてしまった。
どん、と川上は壁に当たったが、痛みは無い。
うっすらと目を開くと…。
そこは大江戸線の車内だった。
オタク男は床に倒れ、小田切誠が男の背中から、自分の手を引き抜いていた。
「ごめん、川上君。
ちょっと手間取ってしまって」
川上は、自分より背の低い、華奢な少年をポカン、と見下ろし。
「助かったよ誠さん!
いや、俺たちは友達だ!
これからは、誠ッちと呼ばせてもらうぜ!」
と、川上は誠に抱きついた。
え、と揉みくちゃになりながら、誠は戸惑っていた。
あれ、なんか、ランクダウンしてないかな?
思いながらも、誠にも笑顔がこぼれていた。




