55ゲーム
大江戸線の最後部の車両だ。
ガラリと連結扉が開き、五人の男が入ってきた。
カブトが戦闘の男と戦い、次の小柄な少年とレディ先輩が戦った。
美鳥さんが巨体の、一番強そうな男と戦い、サラリーマン風の男と、川上と同級である、小田切誠が戦った。
川上にされたアドバイスは、
とにかく、誰かが助けに入るまで逃げきれ、だった。
川上は影の耳を出し、音を集め始めた。
車両にいる10人の心臓の鼓動が聞こえてくる。
何度も死線を潜った、小田切誠も、心臓の鼓動が早くなっている。
天才エリート影繰りと言っても、やはり同級の少年のようだ。
カブトは、逆に、同じく心臓の鼓動は早かったが、むしろアドレナリンが血液を駆け巡り、活性化しているような印象だ。
海外から帰ったばかり、との事だったが、場数は誠より踏んでいるらしい。
そして、川上の前にも、巨大な男が、のそり、と歩いてやってきた。
パーカーは、格闘ゲームの物、シャツはアニメの柄なのが判った。
どんなアニメか川上は知らないが、ジャパニメーションのキャラが大きくプリントされているのだから間違いは無い。
身長は美鳥と戦っているスポーツマンと同じくらい、190センチはありそうだ。
だが、頬にブルドックのように贅肉がたるみ、腹もブヨブヨと膨らんでいる。
なんだか、勝てそうに見えるんだけど…。
川上は、小田切誠よりは背が高く、175センチ程身長があったが、接近戦ならこのぐらいの身長の相手なら、どうにかなるぐらいの研鑽は積んでるつもりだった。
ただ、昨日は小田切誠と何度かスパーリングをして、全く敵わなかった。
最初は影を出して戦ったが、一瞬で終わってしまった。
殴りかかっても、誠は消えてしまうのだ。
透過、という、とんでもない能力なのだという。
耳で位置は追えているのだが、それから二度と、誠の姿を視界が捉えることは出来なかった。
さらに影を使わない戦いでも、誠にパンチが当たらない。
彼は昨年の11月まで、普通の受験生で、特にスポーツ経験すらなかったというのに、川上のパンチが当たらないのだ。
天才と凡人の差なのか…。
川上は、昨日、それまで培ってきたプライドを、誠に打ち砕かれたばかりだった。
ぶよぶよの大男は、冷たい目で川上を見下ろし、
「変な影だね?
その犬耳は役に立つのかな?」
影の戦いは、言葉で相手を攪乱してくる場合もある、と教わっていた。
戦いのベテランなら、会話に乗って、逆に混乱させることもできるが、実戦初体験の川上は、話に加わらずに、ただ拳を固めて戦意を示せばいい。
「ふふ、黙んまりか。
他の子ほどは実戦経験が無いようだね」
たるんだ頬を揺らして、男は笑った。
「可哀そうにね、怖いだろう。
僕は太田のような人でなしじゃないから、まず君に僕の影を教えてあげるよ」
言うと男は、ポケットからゲーム機のコントローラーのようなものを取り出した。
初期のゲーム機の物のようで、ボタンも少ない。
「ちょっと遊んでみようか…」
男がスタートボタンを押すと、川上の目の前に、なんと狼男が現れた。
リアルな人狼というよりは、5頭身ぐらいの、カクカクしたゲームキャラのような物であり、影の色の濃淡で狼男だと判るようだ。
「これはドーンファンタジーのキリュウだ。
まぁ、君の歳じゃあ知らないだろうが、名作だ」
言って男は、コントローラーをカチカチ動かす。
ロングレンジの爪攻撃や、大パンチ、小パンチ、屈む、ローキック、ダッシュ、飛び去る、などの一連のアクションを川上に見せた。
「必殺技は炎のダンスと噛みつき、あと僕は2階しか成功したことが無いけど死人のダンスってのが最強技さ」
カシャカシャと動かして、
「じゃあ、さっそくバトろうか?」
言うと、空中に「GO!」と影で文字が浮かび、一瞬で消えた。
えっ、と思った瞬間、狼男キリュウが素早くパンチを撃ってきた。
5頭身のキャラなので、腕が短そうだが、なんと思うよりパンチが伸びてきた。
ゲーム独特の画像なのだろうか、絵が変わった、ように見えた。
川上は、慌てて後ろに飛んでパンチを避けたが、身体を冷たい汗が走った。
ゲームキャラなので、敵には、音が全く無かったのだ…。




