52影検定
草薙の、頭と顔に出来た無数のガラス傷から流れた血液でマダラになった顔から、ゴーグルがズリ下げられた。
眼は、細長い顔と相まって、とても整った容貌だった。
俳優やモデルというよりは、ホストっぽい顔と言えるかもしれない。
その双眸が、オーロラのように光を放ち、揺らめいている。
それは緑色であり、赤く変じて、青く輝く。
「何…」
カブトは、マッドドクターの催眠を受けた過去を持つ。
あの、誰にも見せたことのない心の底の、人には言えない、色々なヘドロ。
嫉妬や羨望やコンプレックスや性癖、悩みや些細な秘密や両親への不満や体の奥底の疼き。
その全てを見られてしまった瞬間の、圧倒的な絶望感を覚えていた。
この目には、それに近い感覚があった。
こいつ!
体力強化系なんかじゃない!
おそらくあれは、ごく普通に自分を鍛えて身につけた鍛錬の賜物なのだろう。
それでも、普通はあんな動きは出来ない。
なぜなら、無駄な動きであり、初めから勝てないからだ。
町のチンピラ相手ならば、あんなものでも、ある程度の勝率は得られるかもしれないが、影繰りには通用しない。
連打とは、ここ一番に相手の崩れを狙って繰り出されるものであり、最初から続ける意味もない。
だがスタミナ切れになっても、その後に絶対勝てる必殺技を隠し持っているのなら…。
それが影繰りの能力だと思わせられるような身体能力は、影繰りへのジョーカーカードになりうる。
つまり、今のように、だ。
カブトは、右手をブルブルと震わせた。
マッドドクターのように、心の隅々まで、ではないが、今、カブトは右腕を、相手にとどめを刺すために爆弾を乗せた、その右腕を、草薙に操られていた。
「貴様…」
ククク…、と草薙は、ゴーグルを外したことで、意外に下卑た二枚目になった顔に、微かに変態的な喜びのこもった笑いを浮かべながら、語った。
「どうだい。
俺の力も、捨てたもんじゃ無いだろ、内調のエリートさん」
カブトの背筋に、嫌な汗が流れた。
「お前ら、俺たちの事を知っていたのか…」
ケケケ、とキツネ顔の草薙は笑い、
「伸介の占いは100発100中なんだよ。
お前の名も判るぜ。
カブトってんだろ?
3年前に内調を裏切ってアメリカに逃げた変態野郎だ…」
カブトの顔色が変わった。
「変…態…」
「カカカ、ああ、記憶喪失だったか…、悪いな、思い出させちまって…。
お前は、にーちゃんの尻を狙って背中から襲い掛かった屑野郎だったんだよ…!」
カブトの顔に動揺が走る。
腕が、ぐら、と動いた。
「そうだ、自分の頭を爆破しろ!」
カブトの腕が震えている。
「く、くそ!」
腕が、自分の顔に向かって伸びて来るのを、カブトは止められなかった。
「アハハハ、そうだ、死ね!
エリートなんて、死んでしまえ!」
カブトは、苦しみながらも、
「あんた、なんか屈折してるな…。
内調となんかあったのか…?」
と聞いてみた。
男は血だらけの顔を歪めて、
「特に。
まぁ、大学四年で就職活動をしていた時、当然俺も内調の面接は受けたって事だよ。
あっさり書類で落ちたけどな。
3種類の外国語もマスターしてたし、影検定も2級合格だった。
書類で落ちるとは、思っていなかったって事さ」
誠は多分知らないだろうが、カブトは影検定と言うのがある事は知っていた。
日本政府が主宰している、国家資格だ。
「内調で働いている影繰りで、影検定なんて持ってる奴、いないぜ。
それ以前に、2、3人は殺しているような奴ばっかりだ。
シコシコ影検定なんて受けてる奴が、こーゆーバトルで勝てるか、って話だろ…?」
キシシ、と草薙は笑って。
「自分の頭を吹き飛ばしてから、ほざいてな!」
カブトの手は、自分のこめかみに貼り付いてしまった。
「そら、爆破だ!」
草薙が叫ぶ。
草薙の頭が、ミオのパンチを食らったかのように弾け飛んだ。
草薙は反対側の座席まで吹き飛び、角席のポールにぶつかって、ズルリ、と灰色の床に糸の切れた操り人形のように崩れた。
カブトは、自分の右手を見つめて、
「俺が右手を出したのは、こりゃあ、ただのポーズだぜ?
俺の能力は地雷。
最初から、お前の頭に仕込んでたんだ。
こーゆー洞察力が足りないから、書類で落ちるんだよ」
と、肩を竦めた。




