45影繰り
正午前の大江戸線の車内で、カブトは不思議なほど興奮していた。
「ねーねー、スカイツリーも行こうよ!」
すっかり気分は遠足のようだ。
「まー考えてもいいが、まず変装が先だ。
バレちゃ仕方ないからな」
レディは釘をさす。
誠は神経質に、
「もう少し慎重に行動しましょう。
敵はもしかしたら、この車内にいるかもしれない」
自分なりに警戒を続けていた。
「大丈夫だ!」
レディは、自分の首のネックレスを持ち上げた。
「現在、少なくともこの車内に敵は乗っていない」
四人は、最後尾の列車の最も車掌席側に立っていた。
バトルになったとしても、一般人に最も迷惑のかからない位置取りだった。
とりあえず、車掌は一般人に考えていない訳だが…。
「そうは言っても各駅停車ですからね。
次の駅にはいるかも判りません」
誠は警戒を緩めない、が電車は速度を落とし、麻布十番の駅に滑り込んでいく。
ん、とレディは、手に持ったままだったネックレスの先のラピスラズリの動きに気が付いた。
「確かに、次の駅に影繰りがいるようだな」
ケケ、とカブトは笑い、
「皆は手を出さなくていいよ。
俺が片付ける!」
列車はどんどん速度を落としていく。
駅構内が車窓に映り、地下鉄は麻布十番駅に吸い込まれていく。
プシュウ、と車内が震え、入り口が一斉に開いていく。
「音、聞くっす!」
川上が耳を立てるが、
「いや、川上君、もう判ったよ…」
誠が呟いた。
プラットホームの最後尾に立っていた男が、杖で足元を探りながら歩いてくる。
目が悪いようだ。
だが、男の真横には、獰猛そうな四足獣が、のそり、と歩いていた。
真っ黒な獣は、黒豹に見えるが、ネコ科の大型獣としか実際には判らない。
影で構成された生物は、どの道黒く見えてしまうからだ。
シロクマでも、それは変わらない。
獣は、すぐに男の前に進み出、車内に滑り込んでくる。
「影繰りを先に!」
誠は言うが、レディが、まーまー、と誠を抑えた。
「あれが影繰りって確信はあるのか?」
誠の体に、冷気が走った。
「え、わざと間違えるように、身体の悪い人に?」
「誠。
影繰りっているのは、そんな紳士的に正面から決闘するような人種じゃ無いんだよ。
こっそり背中に回って断崖から突き落とす、みたいなのが日常の生き物なんだ。
お前はたまたま、真正面からの戦いに慣れてしまっただけだ。
今日は、そんな奴はいないぞ」
レディが教えた。
カブトは、獣と向き合っているが、その後ろからは、たどたどしい足で、眼に障害のある男性が、白い杖で床を叩きながら、よろよろと歩いてくる。
よく見れば、結構な年齢の人で、白髪頭を古風なハット帽に包んでいる。
「まずいです。
一度、逃げた方が…」
「誠。
心配いらないって」
ゲームに興奮したようにカブトは笑う。
「でもお爺さんが…、怪我を…」
誠は言うが、カブトはアドレナリンでハイになっている。
「そんな失敗はしないよ、誠」
くくく、と笑いながらカブトは話している。
なんとか!
誠は思った。
何とか、影繰りを探さないと!
正午前の大江戸線はガラガラで、最後尾には誠たちしかいない。
誠はプラットホームを透視するが、駅員一人いないようだ。
何処にいるんだ!
出発のメロディが流れた。
老人も電車に乗り込んでくる。
どこか、僕らが判る場所に居るはずなのに!
思い、誠は息を呑んだ。
天井か!
上を透視すると、一人の男が、ペタリ、と貼り付いていた。
こいつか!
誠が思った瞬間、男は爆発した。
「な、失敗は無かっただろ?」
カブトはふふん、と笑っており、老人はシルバーシートに腰を下ろした。
「え、カブトも透視が出来るの?」
驚く誠に、
「俺は、地雷が探知センサーになるのさ。
この電車に乗った瞬間、既に俺は20カ所に地雷を張り巡らせてあるから、天井の男には、すぐ気が付いたんだ!」
親指を立てて、カブトは笑顔を爆発させた。
「全く、あんたたちときたら、何をやっているの!」
へ、と四人が驚いて視線を向けた先には、小柄な黒づくめの少女、川瀬美鳥がなで肩の小柄な体に、黒の腰まで包み込むようなカーディガンを着て、立っていた。
「美鳥さん!」
誠は叫んだ。
「な、なんでスカートなんて履いているんです!」
言われてみると、パンツルックの多い美鳥が、黒いスカートから色白の素足を覗かせ、黒の、男物のような丈の靴下にパンプスを履いていた。




