飛行
「頼んでいた服が出来上がるんだよ!
そこは腕がいいから、遅れたくないんだ。
だけど、そんな事言っても絶対出してくれないだろ。
だから、ちょっとだけ付き合ってくれよ」
レディは熱心に語った。
服の話は嘘ではない。
困った、と思っているのは事実だ。
そういう方が、言葉に真実味が出てくるものだ。
レディは、ミオとの生活で、そう言う事も学んでいた。
誠は、大事そうに抱えたスポーツドリンクのペットボトルを持ったまま、重そうに体を動かした。
「でも、今まで教官の訓練だったんです。
かなり辛くて…」
まぁ、レディも、ミオにサンドバックになったりしているから気持ちは判る。
だが、それこそレディにとってのチャンスだった。
「馬鹿だなぁ。
練習が終わって、それで終わり、じゃいつまでたっても成長は無いぜ。
練習が終わったら自主練だろ!
でも、今日は何も、お前に辛いことをさせようって言うんじゃない。
何かあったら俺が守るし、お前は透過させすればいいんだよ。
ギブ&テークだ」
どちらかと言えば、テーク&テークだが、俺がお前を体を張って守るぜ、という熱意でギブ&テークのように見せかける。
うーん、と唸った誠は、9割断りそうな顔をしていた。
だが、ふと無表情になり、数秒すると、
「判りました。
ちょっと出るだけなら、僕も買い物をしたかったし、着替えて30分後に部屋に来てください」
と誠は立ち上がった。
「そうか。
ありがとうな誠!」
とレディは誠の肩を叩こうとするが、
「面白そうな話じゃん!」
レディは、ちょっと誠を落とすことに夢中になり過ぎていた。
え、と振り返ると、そこにニカッと笑ったカブトと川上が、いたずら小僧のような笑いを浮かべていた。
「よし、じゃあ揃ったな」
レディは三人を見渡した。
誠は、例のアクトレスが選んだ、今時の中高生が着ないようなブランドの服だ。
まぁ、それと学生服の他はスポーツウェアしか持っていないのだから仕方がない。
カブトはピンクを上手に着こなして、モデル張りにお洒落な装いだ。
川上は、まぁTシャツジーンズ。
こいつはどうでもいい。
「よし、じゃあ誠、一気に空に出てしまおう」
「え、飛ぶんですか?」
「この町には防犯カメラがびっしり並んでいるんだよ。チラ、とでも映ったら、即座にバレる。
だから、カメラより高い位置まで飛び上がり赤羽橋まで移動し、そのまま大江戸線で新宿に出るんだ。
そこから三丁目に知り合いの服屋がある。
そこで学生服を手に入れるんだ」
レディはこの30分で練った作戦を披露した。
「学生服なら持っていますよ?」
ポカンと誠。
「馬鹿だな、お前の学校の学生服なんて、みな知ってるだろ。
ちょっとお洒落な、派手目の学生服を着れば、大人の目なんて簡単に誤魔化せるんだ」
まー、ただの服屋では、実はない。
新宿二丁目にある、レディ御用達の、男の娘専門店だ。
ここは男の娘が着れるよう工夫した、一見、女子に見えるよう工夫したパンティや、可愛らしい制服が大量にある。
ここまで無事に到着すれば、川上はともかく、誠やカブトは、全くの別人になるので内調の目も誤魔化せる。
「よし、じゃあ行こうぜ」
あとは、いかに敵の影繰りと出会い、誠に本気で戦わせるかだ。
それの一番の障害は…。
レディはニカニカ笑っている弟を見た。
カブトだよなぁ…。
本気を出せば、接近戦では影能力を使わなくとも自分と互角ぐらいには最低でも戦えるはずだ。
まあ、カブトには誠を戦わせる、という趣旨は、目的は誤魔化しながら話せるだろう。
レディは一人ごち、
「よし、とっとと地下鉄まで最速で移動するぞ!」
レディが声をかけると、誠は無言で動き出した。
一瞬でLED灯の地下世界から、まだ午前中の白昼の青空に飛び上がり、そのまま高速で赤羽橋まで吹き飛んだ。
うわあぁぁぁ!
初めての川上は腰を抜かすほどに驚いており、カブトもジェットコースターに乗ったかのような歓声を上げていた。
すぐに、レディたちは、赤羽橋階札前に立っていた。




