42謎の声
午前中の誠は、アクトレスの攻撃を、避けて避けて避けまくっていた。
誠とアクトレスが入ったのは、敢えてリングも何もない部屋だ。
格闘技以外では、たぶんバスケのワンオンワンぐらいは出来るのだろう、上に畳んだゴールリングが1つだけ見えていた。
むろんアクトレスの本気であれば、誠ぐらいは瞬殺できるだろうから、充分に手加減はしているのだろう。
だが、透過も何もなしで避け続けるのは、心身ともに誠をひどく疲弊させた。
息つく暇もなく、連続パンチが、蹴りが、投げ技が誠を襲ってくる。
182センチメートルのアクトレスが放つハイキックが誠の側頭部を狙う。
背後に誠が避けると、顎を狙って、唸るアッパーカットが放たれる。
背後にばかり逃げていると、やがて壁に追い詰められる。
アクトレスの訓練は無論、追い詰められて終わりではない。
追い詰められたらどうなるのか、しっかり体に覚えさせてから終わるのだ。
アッパーカットのような、下からの攻撃は横に逃げやすい。
誠は転がるように横に逃げた。
回転受け身の要領で、転がり、すぐに立つ。
が、そこを狙って裏拳が飛んでくる。
背を逸らして、鼻先すれすれで拳をかわし、部屋の中央を意識して、ジリジリ後ろに下がっていく。
が、アクトレスは獣のように一瞬で跳ねるように距離を潰し、誠の腹に前蹴りを撃ち込む。
敵が蹴りを放った時、蹴った足方へ逃げるのは鉄則だ。
だがアクトレスの蹴りは足先でブラジリアンキックのようにしなるため、どこまでが射程距離かは冷静に判断するしかない。
誠は素早く左側に逃げ込み、視界を妨げないギリギリまで両腕を上げてガードを固めた。
が、そこにアクトレスの足が飛んでくる。
胴固めか!
足攻撃でも、これはキックではない、と即断し、さっきとは逆の方向に飛び込み受け身をした。
回転して立つ瞬間、誠の腕がアクトレスに掴まれた。
くるりと捻られ、背後に倒される。
そのままだと関節地獄に落とされるので、誠は鉛筆のように転がって、距離をとる。
が、地上を走るアクトレスの方が、当たり前だが早い。
誠のTシャツの襟を、ぐい、と引っ張った瞬間、誠がフワリとアクトレスの手を逃れた。
影か?
アクトレスは疑ったが、影能力を使われれば、アクトレスにはそれと判る。
いま誠は、そう言うんじゃない動きで、アクトレスを逃れていた。
ニカリ、とアクトレスは笑い、自然と1段、ギアが跳ね上がった。
レディは確信していた。
誠に、その力は宿っているはずだ。
とはいえ、あの糞真面目な誠が、能力を隠すなどは考えられない。
あれは、マッドドクターが引き出した誠の能力であり、あの状況だからこそ発揮できた力のはずだ。
そう。
誠を窮地に追い込めれば、再び能力の発動は見るかもしれない。
だが、レディが昏睡状態になる事も、脳を破壊されることも、むろんレディは望んでいない。
コントロールして、使ってもらいたいのだ。
とはいえ、それは遥か未来の事になるだろう。
まず第一は、誠を追い込むことだ。
レディでも今の誠ぐらいは追い込めるだろうが、あの真面目君は練習だ、などと思っているうちは死んでも力を発揮しないだろう。
敵だ。
敵に襲わせ、本当の命の危機に陥らせるのだ。
幸い誠は、首に賞金がぶら下がっていた。
レディは忍ぶように、午前中アクトレスに濡れ雑巾のように絞られてぐったりと、ランドリー前のベンチに座っている誠に近づいた。
「ケケケ、どうだい、俺様の力は!」
誰かの声が聞こえる。
が、レディの知っている男の声ではない…。
「練習なんだから、止めろよ、あーゆうのは」
誠が敬語を使わない相手、となると川上かカブトだが、声はそのどちらでもなかった。
「おい誠…」
レディは観葉植物の影から小田切誠に近づいたが、誠はベンチに蹲っていた。
さっきまでの声と、誠の姿はまったく一致しなかった。
「…あ、レディさん…、今日はちょっと、医務楝まで降りるのはちょっと…」
「あ、まぁ、それは今度で良いよ。
それよりちょっとさ、頼みがあってきたんだ」
レディは努めて明るく、ボロボロの誠に話しかけた。
「なんです?」
「ちょっと外に出たいんだよ、なに30分で良いんだ…」
レディは情熱的に話し出した。




