推測
結局、誠はアクトレスと連れ立ってエレベーターに乗り、トレーニングルームに戻ることになった。
トレーニングルームのエレベーターホールで、誠はふと足を止め、周囲を見回す。
そこは巨大な筋トレルームから50メートルプール、屋内ランニングトラック、剣道場からリングまで備えた総合的な運動施設だ。
廊下には、屋内プールの強い塩素の臭いが常に漂っていた。
「おい、誠、どうした?」
アクトレスに言われ、
「いや、レディさんがどこへ行ったのか、と…」
「奴は、今はカブトの方に集中してもらっている。
お前はそんな事に気を向けている場合じゃ無いだろ!」
小突かれるように誠はアクトレスとトレーニングルームに入っていった。
レディは、それを柱の陰から見ていた。
「キキキ、お前、何を企んでるが…」
レディは、自分が吉岡先生のところに持っていく、と言って、ホムンクルスの瓶を腹に抱え込んでいる。
「お前、知ってるんじゃないのか…」
レディはホムンクルスを見下ろす。
その眼には、強烈な熱意の光りがあった。
「何をぎゃ?」
「どうしてマッドドクターが若返っているのかを、だ…」
レディは女の格好をするのは好きだったが、女になりたいと思ったことなどは無い。
或いは、ミオと出会わなかったらそういう方向に行っていたのかもしれなかったが、レディはミオを愛していたし、ずっと一緒にいたいとも思う。
だが、レディは微かに限界を感じてもいた。
女装に、だ。
他人から見れば下らない事なのかもしれなかったが、レディは醜いオカマになどなりたくは無いのだ。
男の娘。
それを心から愛していた。
だが当たり前だが、自分の体は背が低いなりに、年々男の体になってくる。
いつか…。
そう、遠からぬ未来に、レディは体格的に男の娘ではいられなくなってしまうだろう。
それは、諦めてもいたことなのだが…。
今着ているような、少し中性的なファッションで通すようになると思っていたのだが…。
今を維持できるならば、少し話が変わってくる。
それはレディにとっては、想像していなかったベストな未来像だった。
「どうなんだ?
体の中にいたんだろ?
何か思い当たるんじゃないのか?」
ホムンクルスは困ったように下を向いた。
「判らないのぎゃ…。
俺は、この基地に来てからは、ドクターの指令で外に出て、回線を繋いだり、廊下の鍵をあけたりしてのが。
そのうちに、意識を失ったマッドドクターが運び込まれて、なんとかドクターを救おうとしたぎゃ、全然意識は戻らなかったのが。
何が起こったのか、だから俺は知らないのぎゃ」
あのときか…。
レディも、誠と共に飛行船に乗り込んでいた。
最後の戦いの時には、レディはマッドドクターのヒュプノスで眠らされていて実際に何が起こったのかは知らなかった。
だが、誠は性格の現れた詳細な報告書を上げていて、それは閲覧可能だったのでレディも読んでいた。
それによると、誠はマッドドクターが催眠術をかけると予測し、ドクターの目の前に鏡を突き出した、と書かれていた。
催眠術、なのか?
しかし、あのときマッドドクターは催眠術ではなく、一撃で相手を眠らせるヒュプノスの能力を使っていたのではなかったか?
「マッドドクターは…」
不意に口をついて、レディは自分でもびっくりすることを考えてしまった。
「小田切誠を欲しがっていたんじゃないのか?」
「欲しがっていたが。
ぜひ、あの力を使ってみたいと熱心に話していが。
たぶん、Aに加えたいと思っていたのぎゃあ!」
そうだろうか…?
今、不意にレディが思い当たってしまった考えは、そうではない、と告げていた。
マッドドクターは、小田切誠の体を乗っ取ろうとして、魂を老人の体から飛び出させた瞬間、誠が差し出した鏡により、弾き出されてしまったのではないのか…。
科学的とか、そう言うことは全然判らなかったが、なんとなく、そんなイメージの事があって、ドクターは結果的に自分に戻れなくなり、同時に…。
あれはもしかしたら誠の力なんじゃないのか…。
いつの間にか、レディは荒く息をしながら自分の妄想に浸り込んでいた。




