39要求
誠は影の手でコビトの片足を掴んでいたが、コビトは大暴れして逃れようとする。
「ふーん、これが喋る影か?」
影繰りが遥か遠隔から操作するような影は幾つか知られているが、勝手に歩き回り、不器用ながら単独作業をする影などレディは聞いたこともなかった。
しかも喋る。
暴れる影のコビトに顔を近づけ、
「お前、本当に影なのか?」
とレディは問いかけた。
ふん、とコビトは鼻を鳴らし、
「お前ら若造など相手にならん、わしは強い影なのが!」
おお、とレディは感動する。
「こいつ、会話が出来るじゃん!
面白っ!
スマートスピーカーか何かか?」
「わしは偉大な影ぎゃ!
どんな場所にも忍び込み、単独行動を取って殊勲を上げて来たのがっ!」
作業場の脇に、ミネラルウォーターのスタンドがあった。
上に円筒形のポリ容器を乗せて水を入れると冷水も熱湯も出せる、というもので、誠もよく使っていた。
影の手で容器を取ると、中の水をバケツにあけ、そこにコビトを透過して入れた。
「出すがっ!」
5リットルのボトルに、コビトはちょうど納まった。
誠とレディは指令室に落ちた。
「あー、何度も言うが、ここには落ちないようにな」
永田は相変わらずタバコをふかしながら、透明プラスチック越しに言った。
「上からじゃなくて、斜めからなんだよ」
レディが言い訳をし、これを見てくれ! と誠のボトルを指さした。
「出すぎゃ!」
とコビトはまだ叫んでいた。
永田の口から、煙が止まった。
「なんだそりゃ?
生き物なのか?」
誠はオペレーターの浅香に、中身が見えるか、聞いてみた。
「え、と…、時々ボトルが動いているのは判るんですが…」
「影って事か!」
一般人に影は見えない。
だからこそ、刑事事件としての立件は不可能なのだ。
そこにアクトレスが入ってきた。
「おい、誠こんなところで何をしている、時間厳守といつも…」
言いながら視線はポリ容器に移り…。
「…昔聞いたことがあったな、ホムンクルスとかいう影の事を…」
と、記憶を探り探り話し出した。
「なんでも影繰りはとうの昔に死んでしまっているらしい…。
いや、死んだと言うのは違うか。
なんといっても、影そのものになって、こうして元気に動いているのだからな」
「え、こいつが影繰りでもあるんですか?」
さすがに誠も、それは意外だった。
「影っいうのは、どういうエネルギーなのか、とか、何の力を得て動いているのか、とか、未だに判らないことだらけなんだよ。
影を使ってもそれだけなら影繰りにカロリー消費は無いんだ。
そうでなけりゃあ、誠なんかは一日中空を飛んでいたらげっそりと瘦せるはずだが、そうはならない。
そして、コイツなんかは、影繰りのエネルギーなど得られるはずも無い訳だ。
本物を見たのは始めてだが、こうして瓶に入っていると、まるで本物のホムンクルスのように見えるな」
誠たちは、昨日川上が聞いた声に不信を持って、と口裏を合わせた。
レディはどうしてもマッドドクターの若返りを見たかったのだ。
現実に、それが起こる、と信じられることが重要だった。
レディは、身体が震えるほど、それを目の当たりにする事を切望していた。
「つまり、これが12月以来内調にいたから、やすやすと防犯カメラ映像が敵に流れ、こっちの動きは全て敵に筒抜けになっていたのか」
「そう思いますが、現実には技術者の方に実証していただくしかないと思います」
「教えてやってもいいが…」
誠の手のポリボトルの中で、不意にホムンクルスが喋り出した。
「え、教えてくれるの!」
逆に誠は驚いた。
ケケケとホムンクルスは笑った。
「俺は、そこの女が言う通り、とうに肉体を失った、影の存在ぎゃ。
だから、俺の目的さえ達せられれば、Aに利益があろうがなかろうが、知ったこっちゃ無いが。
Aは俺にそれをくれたから手を貸していただけが」
「何が欲しいんだい?」
アクトレスが警戒しながら聞いた。
たいてい、気安く了承できるような事ではない場合が多い」
「体が欲しいぎゃ。
影繰りとしての体があれば、別に肌が黄色でも気にしないが!」
瓶の中のコビトは、薄く笑いながら語っていた。




