35若返り
「な…、何で2人が…!」
誠は狼狽えた。
吉岡先生、美鳥さん、2人は誠にとって特別な存在だった。
素っ裸で会うのはマズすぎる…。
「ちょっと、勝手に入ってくんなよー!」
レディは裸の女に慣れているので、普通に抗議する。
「あらぁ、私たちも帰宅難難者なのよ。
仲良くしましょうよ♡」
レディの頬っぺたを吉岡は撫でた。
「本当にきれいな素肌ね」
レディは、ヘン、と笑って、
「俺をそんじょそこらの男と一緒にするなよ!」
と、えばるが、美鳥は後後を滑って、誠を捕獲した。
「わぁー、何するんですか美鳥さん!」
叫んでいるが、結構テンションは上がっていた。
「この子の肌も、前から思っていたけど尋常じゃ無いのよ。
レディちゃんみたいに色々している訳でもないのにね」
美鳥の言葉に、レディも、そうだろう、とノッてきた。
「しかも美尻具合も、ちょっと、その辺の男子学生にしておくのは勿体ないレベルなんだよ!」
尻はまずい!
吉岡先生に下半身など触られては、万一の大惨事も予想できた。
「そーじゃん無いんです!
何故、この本部にマッドドクターを収監し続けているのか、って事なんですよ!」
必死に誠は言った。
「あー、それね…」
吉岡は誠の背中に、大きな胸で確かな圧迫を加えながら、誠の手をさらり、と撫でた。
「あれは動かせないのよ」
「動かせない?
つまり、動かしたら死んでしまうと…?」
はぁ、と吉岡は溜息をつく。
湯舟に浮いた大きな胸が、誠の背中に当たって波を作った。
「逆なのよ。
あの男、どんどん回復しつつあるの。
バイタルはおよそ30代男性の数値に近いのよ」
誠は、む、と考える。
「それは、でも健康って事でしょう?
何故、動かすことを躊躇うんです?」
吉岡は、誠の肩に顎を乗せて、
「ここ1か月で、あの男は、バイタルだけでなく、外見をも、どんどん若返っているの。
奴は今、全然老人なんかじゃないの。
青年、って言って良いわ。
1週間前は健康な中年だった。
それがどんどん若返って、青年になり、もう暫くすると、おそらく少年になるでしょう…」
「影能力なのか?」
井口が、驚いて言った。
吉岡は肩を竦める。
「判らないわよ。
あれが影能力で可能であるなら、それは不死身という事なのか、或いはやがて子供になり赤ん坊になるのか、今の段階では全く予想がつかないの。
今、我々は固唾を飲んで、あれの変貌を逐一、記録し続けているだけなのよ。
だから動かせないの」
みな、唖然と言葉を失っていた。
時間を逆行してどんどん幼くなるマッドドクター。
「でも…、そんな事自然に起きる訳は無いのだから、影能力としか考えられない…!」
誠は呟いた。
「でも若返れる能力があるのなら、何であいつは爺さんだったんだ?
どの年代が理想とかは個人差があるだろうけど、20代でも、30代でも、身体が自由に動く年齢でいられるのなら、そうするのが普通じゃないか?」
レディが言った。
レディは、正直、日々、大人にならないよう、苦心している。
青山や井口のように自分がなる、と思うと、本当に気持ち悪いのだ。
今のまま、ここで成長が綺麗に止まって、このまま20代や30代になりたいのだが、逆に言うと、それは成人したくない、という意味でもある。
自分に髭が生えた時には、ゾ、っとしたし、喉仏だって、整形手術を受けたいぐらいだ。
自分がそういう能力者であるなら、たぶん中学生、ぐらいには戻るだろう…、とレディは本心から思っていた。
「たぶん、そんなに簡単な事ではないのではないのでしょうか?
身体が若返っても、例えば一から体は作らないといけなくなるとか、或いは頭も…」
誠の言葉に、吉岡は、
「記憶も失う…、そうね。
なんどか尋問を試みて、確かに彼は老年の自我を失っているようだわ。
いま、彼はアフガニスタン戦争時代を生きているらしいのよ」
誠にはピンとこなかったが、だいぶ昔の事なのだろう、とは推測出来た。
何十年も昔の自我が、蘇っている。
同時に、何十年分、大量の記憶を、マッドドクターは失い続けているのだ。
「筋肉はともかく、勉強とかは1年2年で取り戻せるものではないから、特に、あのマッドドクターみたいな学者には致命的な欠損かもしれない。
しかし、コントロールできない影なんてあるのかな?」
青山は言う。
「ユリという影繰りがいました。
刺したら相手の体はコントロールを失う、という強烈な虫を作る影繰りでしたが、彼は能力をコントロールできなかった。
僕に、殺して欲しい、と言ってきました」
浴場は、微かな水の流れる音が耳につくほど、静まり返った。
「でも、それだと、何故2人の影繰りがドクターを殺しに来たのか、意味が解りません。
放っておいても、赤ん坊になり、消えるのならば、それを待てない理由は何でしょうか?」
「あれじゃないか?
今の現象自体が極秘の何かで、この謎が解明されないよう、刺客を送り込んできた…」
レディは、今の話にのめり込みつつあった。
若返れると言うのなら、大人にならないで済むのなら…。
切実なレディの思いが、その謎に吸い寄せられていった。




