宿泊
「え、本当? やったー!」
カブトが飛び跳ねて喜んだ。
「おいおい、修学旅行じゃないんだからさ」
レディは呆れるが、
「だって兄さん! 僕アメリカにいたから、修学旅行をして無いんだよ!」
まーそう言えばそうだったな、敵な空気が誠、レディ、美鳥、井口、青山に広がる。
報告書を書き上げた誠は、幾つかの報告書に目を通し、吉岡先生の医学の課題をこなした後、さっさと入浴し、湯上りに意を決して宣言した。
「ちょっと、いつまでもゲームしていないで、出て行って欲しいんですけど!」
モニターの前には、カブトと川上、それにいつの間にかレディや井口まで集まってきていた。
「良ーじゃないか、誠だって春休みだろ、遊ぼうよ!」
カブトが毒気の全く抜けきった笑顔で、誠に告げた。
「学校は休みでも、トレーニングメニューはあります。
家に帰れない分、ここで朝のランニングもするので8:00には起きなきゃならないんです。
もう11時なんですよ!」
「だけど、こっちは帰宅許可が出ないんだよ」
と、レディはカーペットに直座りしてコントローラーを持ったまま、肩を竦めた。
誠は、どうなっているのか、と指令室に内線電話をかけようとしたところ、青山と美鳥が誠の部屋に入ってきた。
「しばらく、帰宅禁止だそうだよ」
へ、と驚く誠に美鳥が、
「誠も青山さんも襲われた以上、安全が確保されるまで迂闊に外に出る訳にはいかないのよ。
敵は、箱の蓋を開くだけで我々を拘束できる。
で、あれば影繰りと言っても一人になれないわ。
なので今日のところは、皆、宿舎泊まりよ」
美鳥の宣言に、カブトが大喜びした、という状況だった。
「まー、修学旅行なら良いですけど、外に出られないんじゃ、特に楽しくはありませんよ…」
誠は愚痴るが、カブトは、
「ばかだなぁ、修学旅行なんて、夜が楽しいんだろ。
昼間は寝るもんさ!
ねー、ここって大浴場があったよね!」
あるわよ、と美鳥は呆れ気味に、
「浴場にサウナ、お望みならマッサージ機もあるわ。
でも大人も使うんだから、弾けて散らかしちゃ駄目よ」
と、しっかり釘を刺した。
カブトの、行きたいオーラに逆らえず、誠たちは宿舎と同じ階にある大浴場に向かった。
毎日トレーニングをしているとはいえ、誠はシャワーで済ませているので、大浴場に行った事は無い。
訓練場とは距離があるし、イメージとしてはゴッツイおっさんたちが幅を利かせている、というようなイメージもあった。
「僕は、もうすっかり体を洗っているんだけど」
誠は、微かな抵抗をしめした。
カブトは、すっかり誠に懐いてしまったのか、
「馬鹿だなぁ誠!」
と誠の首に肩を回して、
「大浴場は体を洗いに行くんじゃないんだよ!
皆で風呂に入ることに意義があるんじゃないか!」
なんだ、その意義は…、と誠は思ったが、結構みんな楽しそうにしていた。
青山と井口は筋肉談議に花が咲いているようで、レディは2人を、
「筋肉ダルマで気持ち悪いぜ」
と非難する。
女の娘であるレディは、薄い胸板、細い脚、1部を除いて少女と言っても過言ではない仕上がりだ。
カブトは、そこそこ井口たちとも柔道の練習などもしているのだが、見るとレディほどではないが、あまり筋肉らしいものが目立たなかった。
「ほら、誠だってお前らとは違うじゃないか」
「話に混ぜないでください!」
レディの言葉に、誠は怒鳴る。
「いやー、でも、あの力からすると不思議なほど、筋肉が無いですね…」
川上は、それなりに鍛え上げられた肉体ではある。
井口たちとは2学年離れているので、だいぶ見劣りはするものの、手足にはしっかりとした筋骨が走っている。
誠も、実際はせめて川上ほどの筋力が欲しかったのだが、そういう遺伝子ではないのか、カブトに比べても物足りない骨格を呈していた。
「騒いでないで、早く、入りましょうよ!」
スライドドアを開いて湯舟を見ると、かなり広い浴槽が、石組みで湯気の奥まで続いている。
「なんか、無駄に広い浴場ですね…」
湯舟の奥は、湯気で見えない。
一番! と叫んでカブトが湯舟に飛び込んだ。
テンション上がったら騒いで暴れるタイプなんだな…、と思いながら誠はシャワーを浴びた。
集団でワイワイやっている連中から離れて、奥目の風呂に入るが、集団の方が誠に寄って来てしまった。
「ほらー、みろよ、この尻だよ!」
水中でレディが誠の尻に手を伸ばし、
「この弾力が素晴らしい!」
と弟そっくりのポーズで誠の首に肩を回して、
「お前、女装したいなら相談に乗るぜ!」
「したくありません!」
喚く誠だが、興奮した男たちは誠の尻に手を伸ばす。
これは全く誠の望む方向では無かったので、誠は会話の方向を変えることを画策した。
「そう言えば皆さん、ちょっと不思議だと思いませんか…」
何が? とカブト。
「なぜマッドドクターをいつまでも基地に置いておくんでしょう?
しかるべき病院か、もしくは留置場に送るべきなんじゃないでしょうか?」
「そんなことをしたら、それこそ今日のように襲撃を受けるだろ?」
井口が言うが、
「ここの場所が割れてるからですよ!
どこかの山中とか、軍事基地とか、もっといい保管場所はあるハズなんです」
誠の熱量に感化されたのか、青山も、
「確かに毎回基地が襲われたんじゃあ、こっちも身が持たないよね」
と寝てただけなのに言い始めた。
「あらぁ、面白い事、話してるのね」
突然の女性の声に驚いて、振り返ると、吉岡先生と、背後に美鳥までが、水着を着て湯舟に使っていた。




