29乱戦
誠もだいぶ、烏賊の攻撃に慣れて来ていた。
直ぐ足元を透視すると、凄い勢いで突っ込んでくる烏賊の姿を捉える事が出来た。
触られたら終わり、かもしれない…。
誠の予測通りならば、一瞬の接触で誠は失神し、土中に飲み込まれる。
後は川上もカブトも、烏賊に対抗しうる手段は何も持っていない。
全滅だ。
誠が戦う以外、このシナリオに変化はない。
だが、誠はどうすれば烏賊に勝てるというのだろう。
透過は得意なのだから、烏賊に触れられないでいる事は出来る。
だが、それでは勝てない…。
カブトは、霊長類と接近戦を始めていた。
体の周囲に、羅針盤のように幾つもの小さな火の玉を浮かべており、3メートルの巨人が、その自分の膝を撫でられるくらい長い両手で、器用にカブトのあらゆる方角にパンチを繰り出すが、火の玉の爆発でそれを無に帰している。
そして隙を見つけると、火の玉は霊長類の体に蛍のように飛んでいき、爆発する。
この爆発は、頑強そうな霊長類を数メートル、飛ばすほどの威力だった。
が、霊長類に疲れは見えない。
霊長類もまた、対カブト用の影繰りだとすると、烏賊のように、何らかのカブトに対抗する手段を持っていてもおかしくはない。
カブトが崩れれば、また誠も2体の影繰りに対して劣勢に立たされるだろう。
そうならないためには、烏賊を倒すしかないのだが…。
奴は僕に触れば勝てるが、僕は奴に触ったしても勝てない。
敵の方に、利があるようだった。
「烏賊、来るッス!」
誠の足首に、烏賊の触手が触れる。
まだ冷たくない…。
誠は烏賊を見ていた。
すると…。
触手にガッチリと掴まれた誠の足に、奥から何かが伸びてくる。
誠の透視が、それを見ていた。
人間の腕だ!
巨大烏賊は、その体の中に、人間を隠していたのだ。
腕が誠の足首を掴むと、ヒヤリ、と前と同じ感覚が襲った。
誠の体は、ずぶりと、土の中に引き込まれていく。
そして!
烏賊の中に男の顔があった。
勝利を確信した男は、右腕を烏賊の身の中で伸ばしてきた。
手には、スタンガンが握られていた。
それか…。
誠は、自分を透過し、土から抜け出した。
確かに、薬品では一度失敗したら終わりだし、靴を透過して撃ち込む、という状況では破損の可能性も高い。
スタンガンなら複数回の使用に耐えられるし、むろん軍事用の強力なものなのだろう。
見切った誠が烏賊を落とそう、とするが、烏賊は体を捻って、なんと土の中から飛び上がった。
しまった!
烏賊の行動範囲は土の中だけと、誠は勝手に思い込んでいた。
だが魚が身を躍らせて空中の虫を食むごとく、烏賊がジャンプしても何も不自然は無かった。
触手が開く。
中の男はスタンガンではなく、小型だが9ミリ弾の打てる、プラスチック拳銃を構えていた。
そうか!
ドールマスターが誠の弱点を持ち帰っていたならば、近接戦闘の影は纏えていないので、銃弾は透過で避けるしかない、と教えていてもおかしくはなかった。
空中で、誠と烏賊の中の男は、一瞬目が合った。
ガゥン! ガゥン!
二発の弾丸が発射された。
至近距離からの発砲だった。
透過するタイミングは無かった。
誠は弾丸を顔と肩に受けて、よろけた。
「誠さん!」




