28挟み撃ち
カブトの言葉は言い得てみょうだ。
確かに、奴はゴリラやオラゥータンのような怪物的類人猿のようだった。
だが、2メートルに満たないそれらの類人猿とは明らかに、巨大さと直立していることが違う。
まさにそれは、体毛に覆われた霊長類のようだった。
「サスカッチ、っす…」
川上が呟いた。
伝説的な山の怪物の要素を、確かに東屋を吹き飛ばした爆炎に包まれながら、平然とこちらを眺める怪物は、身に宿していた。
落とす…。
即座に誠の頭には、対処法が浮かんだのだが…。
思い出して、あの巨大烏賊を落とした場所に視線を移した誠は戦慄した。
烏賊がいない!
落とした手ごたえは充分にあった。
どんな生き物でも、30メートルの高さから落下させたら自重からとてつもない加速度がつき、重症を負う。
なのに何で…、思って誠は思い至った。
奴は透過持ちだ。
落とされた場所から数メートル透過をすれば、水に落ちたようにクッションを得ることが出来るのだろう。
誠の透過と烏賊の透過は、その辺が微妙に違うようだ、と誠は気が付いた。
烏賊は、土の中を水と捉え、泳ぎ回っている。
誠の透過は、文字通り落とし穴だ。
その間何十メートルかの物質は完全に消え去る。
だから誠は敵を落とすが、烏賊は泳ぎ、相手を土中に引きずり込む。
奴にとって地面は水と同じなのだ。
思えば、土中を自在に移動できさえすれば、完全に安全だし、建物をショートカットすれば歩いたり走ったりするよりも早く移動できる。
車道も歩道も、高いビルも激しい川も、奴には全く関係ない。
「サスカッチが動き出したっす!」
川上が叫んだ。
え、と誠が島に視線を移した時には、そこには損壊した東屋しかなかった。
サスカッチは、空中にいた。
とてつもない大ジャンプだ。
池を飛び超え、一気に誠達に迫ろうと、サスカッチはしていた。
その距離は、およそ30メートル。
ちょっと想像を絶する身体能力を、サスカッチは得ているようだ。
地底には巨大烏賊。
地上ではサスカッチ!
どちらもゴテゴテのパワータイプであり、誠やカブトとはタイプが違った。
ここに例えばダンサーチームがいれば、彼らの動きを食い止めてくれるだろうが、誠とカブトでは真正面から打ち合う戦いは出来ない。
「烏賊、また背後に回ったっす!」
サスカッチと連動して動いていいるのだろう。
前からと背後からで挟み込み、有利に戦おうとしているのだ。
「誠、サスカッチは任せろ!」
カブトが前に歩み出る。
「ちょ、カブト、まだ傷が…」
ケケケ、とカブトは笑い、
「あんな体力馬鹿に負けるかよ、俺が!」
カブトに、12月の頃の面差しが戻ってきたようだった。
「誠さん、狙われてるっす!」
川上が叫ぶ。
透過持ちと、どう戦うのか…。
誠は唸った。
そして疑問を感じた。
奴も、状況は同じようなもののはずだ。
しかし果断に仕掛けてくるのは、何らかの対策を持っている、って事か…。
一体どんな対策だろう。
透過で逃げられてしまう相手に有効な武器等あるというのか?
敵は僕の踝を掴んだ…。
強烈な力だった。
透過できなければ、一瞬で土の中に引きずり込まれるだろう。
現に僕は、足まで土の中に入ってしまった。
あの時の、ひんやりした感触は、今まで感じたことのない温度だった。
考え、誠は気が付く。
あれ?
靴の上から、僕は温度を感じたのだろうか?
あの時、僕は素足を何かに触られたのでは無かったか?
一瞬の事なので判然とはしないが、靴と靴下をはいた上から土を感じた、というには不自然があった。
僕の足が感じた冷たい感触は土ではなかったのではないか?
もしや…。
透過能力であれば、靴も透過して素足を触れられるのか?
毒!
12月のムーンライト号の中で、誠は毒物を吸引し、絶体絶命に陥った。
相手はドールマスターで、あの戦いの中、逃げ出した唯一の影繰りだった。
奴は、僕の弱点に気が付いている…。
透過で物理的な攻撃の影響は受けないが、毒を吸引すれば普通の人間に過ぎない。
血液中を毒物が流れれば、透過能力などと言っても、体内の毒物まで透過は出来はしないのだ。
そういう事か?
一瞬接触できれば、それで使命を達成する類の毒物を使おうとしてるのか?
そのために一度、靴を透過してみたのだろうか?
可能と判れば、次の時には毒物が襲う?
テストをしたのは、靴の透過が出来なければ、器具に破損の恐れがあるためか?
脆い針や、或いは…。
靴の上からでは、スタンガンは使えない。
その手の攻撃を狙っているのか?
全てが推測だったが、確かに一番恐ろしい攻撃は、毒や電気ショックなどだった。
そして、確かに誠は靴を透過して冷たいものを足に感じていた。
「烏賊、来るっす!」
川上が叫んでいた。




