27烏賊
影の手が、敵の太い胴体を左右から掴んだ。
掴んだ、と思った瞬間、それは水のように影の手を逃れ去った。
同時に、川上も、どすん、と地面に落ちた。
透過だ!
やはり、敵も透過を使う影繰りだった。
だが自分の体を透過した場合、川上を掴み続けることが不可能なため、川上は落下したのだ。
敵は地面に落ちると、そのまま真っ直ぐ下に落ちるように逃げて行った。
おそらく任意に、土中を落下したり、浮上したりできるらしい。
多分僕の透過では、仕留められない…。
確かに敵は、対誠用のスペシャリストだった。
この敵には、落とす、事がほぼ無意味だ。
どこまで落としたとしても、そこから水を掻くようにして泳いで登ってこられる上、たぶん土の中で呼吸も可能のようだ。
影能力はイメージの世界であるため、どのような理由で土中で呼吸する、のかは判らない。
おそらくその全てを含めての影能力なのだろう。
誠の額を、脂汗が伝った。
どう戦えばいいのだろう。
この敵は、落とすことに意味が無いし、第一、透視をしながら誠が補足するには素早すぎる。
「川上君、敵の位置は?」
誠の声が切迫してくる。
「今、誠さんの背後に回り込んでいるようッス!」
僕を土中に引きずり込むつもりか!
確かに、そんな事になったら、一転、誠は死の淵を彷徨うことになるだろう。
「誠、地雷を敷設し終わったぜ!」
カブトが叫んだ。
そうだった。
カブトのサポートも、僕の仕事だ。
「どこ?」
聞くと、カブトはニヤリ、と笑って、
「あの島の東屋さ」
なるほど。
東屋を壊したら後で怒られるかもしれなかったが、しかし地雷は立体的に設置できる。地面だけに平面につけるよりも、ずっと巨力な破壊力を持つ。
「判った!」
時間は、あまりなかった。
誠は、影の手を伸ばすと巨大な男を鷲掴みにし、そのまま透過して東屋に引きずり込んだ。
「よし!」
カブトは快哉を叫んでいた。
「川上君、敵は?」
「すぐ足の下っす!」
言われた瞬間、誠はズン、と足を掴まれ、そのまま地面を引きずり降ろされていた。
自分の足が、ひんやりとした土の中に沈み込んでいく。
敵は、触手で誠の足を踝までガッチリと掴んでいた。
透過!
敵が、誠が自分の足を透過したため、一気に地底に沈んでいくのが誠に見えた。
烏賊か!
あの男は、どうやら人間大の巨大な烏賊に変身し、土中を高速移動する影繰りのようだった。
烏賊の触手が、あんなにロケットみたいに尖って体の前に来るなど、今初めて誠は知った。
頭のヒレが、実は魚の尾鰭になっていたらしい。
巨大烏賊は、凄まじいスピードと高い旋回能力で土中を自在に走り、隙あらば、と誠を狙ってくる。
土中に引きずり込まれたら誠に勝ち目はない。
しかし、奴を地上に引き摺り出す術はない。
透過能力とは、なるほど敵対してみると、とても厄介な力だった。
透視の範囲を可能な限り広げてみると、烏賊が左手に逃れていくのが見えた。
あ、と誠は叫んでいた。
烏賊は、あの大男の救出に動いたらしかった。
地雷を透過されると、せっかくの東屋の立体的な地雷原も全て無駄になる。
誠は、烏賊を落とした。
烏賊は、土中を数十メートル落下して、地の底に叩きつけられた。
よし、上手く落とした!
誠が思った瞬間、東屋が爆発した。
「やったぜ!」
カブトが花火が上がったような気楽な歓声を上げた。
東屋は粉々に吹き飛び、土煙が周囲に広がった。
「いや、生きてるッス!」
川上が、悲鳴に近い声を上げた。
大男は、さらに大きくなったようだった。
身長は3メートルに近いのではないか?
腕は、ほぼゴリラ並みに、太く、長かった。
「霊長類かよ…」
カブトが呟いた。




