19押絵と旅する男
マツキヨの黄色の溢れる店頭風景の中を、真っ赤なドレスを着、優雅な純白のハットをかぶった女が、たおやかにスカートをなびかせて、店から出、歩み去っていく。
防犯映像は無音だが、女の履いているエナメルの白いハイヒールの靴音まで聞こえてくるようだ。
白いハットには赤いバラが束になってつけられている。
「ハリウッド女優か?」
井口が唖然と語る。
そういう、立ち姿にも色気のようなものを感じる女性だった。
「あれは金かかってるな。
帽子はたぶん、オーダーメイドだから、百万近くするんじゃないか?
靴はクリスチャンルブタンだな。
ん十万だ」
レディは、ふつうの男子とは違う目で女を見た。
「いけすかないわね」
美鳥は一言で切り捨てた。
「何か手に持ってませんか?」
「グッチのバックだろ」
言うレディに、誠は、
「それとは別に、手に箱のようなものを持っていますよね?」
ん、と全員が凝視すると、確かに高級ブランドのバッグを腕から下げているほかに、手に小学生の習字セットにも似た小型の四角い箱を持っているのが判った。
茶色い表面は革製のようで、もしかするとルイ・ビイトンか何かかもしれない…。
「確かに、ちょっと違和感のある箱だけど、それが何か…」
カブトは問いを発するが、その前にレディが、ああ、と叫んだ。
「いる!
青山は、あの箱の中にいるんだ!」
ええ! と指令室に驚愕の声が響いたが、中に誠の声も交じっていた。
誠は、颯太に言われただけだったのだ。
「乱歩に、押絵と旅する男、ってのがあったな」
永田が呻く。
「なんだそりゃ」
とレディが突っ込む。
「餓鬼は知らないか。
十二階って、高いビルに望遠鏡があって、それを見ていた男は、ある女に一目惚れするんだよ。
だが実は、女は縁日の押絵、まあ半分立体感のある、本物に似たように作られた人形だったんだ。
男は、それと知っても諦められず、やがて絵の中に入ってしまう、と、まぁ、そんな話だ」
「あ、それ知っています」
と誠が言った。
「絵が動いてしまう奴ですよね」
「ああ。
絵と旅をしているのは弟で、兄は絵の中で女と二人、幸せな所帯を持っている…」
「…的な事が、あの女の箱の中で起こっていると…?」
レディはムムッ、と考え込んだ。
「でも、あなたが、あそこに青山君がいる、って言ったんでしょう?」
美鳥はむせ返した。
「言った…。
だが…、いかに影能力だろうと、そんな事がありうるのか?」
アクトレスが溜息を突くように、
「もし、出すことも可能ならば、大変な軍事的メリットはあるよ。
例え敵国の中だろうと、人間一人なら山だろうが川だろうが、何とか潜入は出来る。
そして予め計画した地点で一個師団の軍隊を出したらどうなる?
どんな要塞だろうが陥落は必至だ」
「あんな箱に青山さんを入れられるのなら、マツキヨでなくとも誘拐できます。
おそらく、青山さんには抗う時間すらなかったのではないでしょうか?
それならば、女が近づけさえすれば国家元首でも誘拐可能です!」
颯太の言った意味が、誠にも判ってきた。
「つまり、あれかい。
飛ぶ影繰りが犯行声明で、同時に箱入れ女が仲間だって事かい。
奴らは品川駅を爆破しても、女が箱に入れて持ち去れば、事実上、日本中のどこでも品川駅と同じように爆破できる、って事かい?」
「おい、品川駅にこの女がいたかどうか、洗い直せ!」
永田が叫んだ。
「でも疑問もありますね?
こんなに簡単に拉致できる影繰りがいるのなら、なぜ僕を襲ったのは水使いだったんでしょう?」
もしかしたら…、と美鳥は呟く。
「誠は賞金がかかっているので、別の集団に襲われたのかもしれないわね」
「おいおい、この本部の周りに、どれだけの影繰りが集結してるって言うんだ…」
レディは唸った。
「ゾンビ映画みたいだね!」
何故かカブトは嬉しそうだった。




