18空を飛ぶ影繰り
真っ黒な男、それは別にネイティブアフリカンという訳では無かった。
影繰りが影を纏った時には、このように見えるのだ。
男は、画面に上半身を収め、右足が画面と水平に伸びている。
電柱にでも、停まっているかのようだった。
「おい、この影、どんなスピードしてるんだ?」
井口が驚く。
今まで黒い影は見逃されてきていた。
なぜなら、コマ送りで映像を見て、一コマで画面に現れ、次のコマではウインクをし、三コマ目には去り行く彼の足の一部と思われるぼやけた影が、画面の端に見えるだけだったからだ。
「えーと、一般常識的には24コマで1秒ですが、防犯映像がそうであるのかは今、設備部に問い合わせます」
指令室には、アクリル板に仕切られた永田の席の他に、十人ほどのオペレーターが座っている。
彼らが情報を収集し、指令室を動かせているのだ。
「今まで、カラスでも通り過ぎたんだろうと思っていたぜ…」
永田が唸った。
「いや、でも待って!
1秒の24分の1って時間でしょ?
この影と青山さんの誘拐、本当に因果関係があるの?」
美鳥が取り乱した。
「確かに、影はこっちを見て、ウインクして飛び去っただけだよな。
青山に危害は加えていない」
レディも唸る。
「しかし、この状況で、しかも明確に防犯カメラを意識したボディランゲージ、何も関係ないとは思えません」
誠は言い、
「第一、これが見た目道り人間であるのなら、この人は間違いなく影繰りなはずです。
つまり誘拐も影能力を使ったもの、と考えられるのではないでしょうか?」
「まぁ、確かにな…」
永田は唸る。
「でも逆に、影能力で誘拐したとしたら、こんな男をわざわざカメラに残した意味は何?」
美鳥の問いに、誠が、
「つまり、あれじゃないですか。
人質は我々が誘拐した、って奴…」
「犯行声明の変わり、って事かい!」
アクトレスは怒りに声を震わせた。
「もう一つ、俺も空を飛べるよ、って意味もあるんじゃない?」
とカブトが言う。
「誠に対する、意趣だと思うな」
「敵は、空を飛ぶ影繰りって事かい。
そうなると、犯人も絞られるけど、それは考えたくないもんだね…」
アクトレスは当惑した。
「あ、空を飛ぶ影繰りはいる、って前に行ってましたよね」
誠が聞くと、アクトレスは、
「ああ。
ほとんど伝説的な影繰りだ。
スカイウォーク。
つまり、空を歩く男。
こいつはトムキャットとドックファイトを行って、撃墜して見せた、と言われる、最凶の影繰りの一人だよ」
「スカイウォーカーとも言ってな。
別に映画と関係なく、空飛ぶ影繰りとして名をはせた男だ。
しかし、もう相当の年齢のはずだがな」
永田も言う。
「トムキャットって、M-14だろ?
相当昔の戦闘機だよな?」
レディが思い出そうと腕を組む。
小学生時代は、レディも飛行機好きの子供だった。
「ま、1990年代の最新鋭機ってとこだろうな。
だが、仮に人間が空を飛べたとしても、相手が出来る代物じゃない。
マッハで飛び、その機関砲は、さすがに影繰りでも当たったら体が千切れる破壊力だ」
永田は教えた。
「つまり、音速で飛ぶ、って事ですか?」
さすがに誠も血液が逆流する寒気を感じた。
そんなのと比べれば、誠が飛ぶと言っても、ほぼ風船が風に漂っているに等しい。
「影繰りの伝説なんて、皆、風の噂程度のもんだからね。
本当に音速で飛ぶのか、どうやって飛ぶのかすら実際には判らない。
だが、あれは本当に湾岸戦争当時、何度となく飛行編隊を退けているはずだよ。
撃墜数も一桁じゃない」
「まー、カラスと見間違ったわけだから、カラス程度には飛べる、って事だね」
カブトは変に納得していた。
「あの…」
と川上が、緊張ゆえか、干からびた声を出した。
「そのスカイウォーカーとは別に、青山って人を誘拐した影繰りもいるッスよね…」
「まぁ青山さんは凄い影繰りだけど、戦闘能力がある訳じゃないんだよ」
誠は教えた。
「でも、弱くはない。
あれでも、柔道も総合格闘も、俺と互角程は出来るんだぜ」
井口は言った。
「おそらく影繰りの仕業、と見て良いでしょう。
青山さんを誘拐したのも、第二の影繰り、と思った方が良いはずよ」
美鳥は断定した。
「そうだな。
青山は体格も良く178センチぐらいは背もあるしな。
ほんの一瞬で連れ出すとすると、影能力と考えて良いんじゃないか」
永田も賛同し、
「他のカメラ映像は無いのか?」
とオペレーターに要求した。
飛行男の通った同時刻、三台のカメラにマツキヨが映っていた。
そこには、派手な、赤いドレスを着た長身の女が一人、マツキヨを出、黒い車で走り去っていた。




