増殖
大門駅から這い上がってきたゾンビの群れは、浜松町を抜けて内調に迫ってくる。
無人だった街に、死人の群れが津波のように押し寄せた。
同じように重機関銃に撃たれ、高圧電線が焼いたが、しかし後から後から、続々とゾンビたちは進んでくる。
「今日死んだんじゃない人たちもいる…」
ユリは驚いたように呟いた。
ゾンビには、明らかに人種の違うものが大量に含まれていた。
浅黒い皮膚は、おそらく東南アジアの人たちに違いない。
また、白人も少なくない。
「貧しい白人も、僕たちの町には多いんだよ…」
唸るようにユリは囁いた。
「日の出桟橋からも、ゾンビが出現しました!」
竹芝桟橋と地下鉄大門駅が、基地の南北であれば、日の出桟橋は西側という事になる。
「普通なら、南に墨田川を抱えて守りやすいはずだが、ゾンビの群れの運搬には、むしろ好都合だったようだな」
芋之介が唸った。
「くそ!
見ていることしか出来ないのかよ!」
ユリコが怒る。
「内調本部は、堅い防壁で守られている。
今は、ジタバタせずに、敵の本拠地を探るのが先決だ」
永田は諭した。
「ん、ゾンビの臭いなら、あたしの鼻腔に焼き付いてるぜ!」
ユリコは、何かを大発見したように言い出した。
「あたしの鼻は特別製なんだよ!
ゾンビ臭い奴がいれば、100メートル離れていても、一発で見つけられるぜ!」
「あー、確かに、ゾンビの臭いで追えるかもしれないわね…」
美鳥も考えだす。
「まぁ、2人なら誠と一緒に外に出て探してもいいが、無理はするなよ」
アクトレスが許可を出した。
ユリコは、あの鉄パイプに、バット用の滑り止めを貼り付け、カスタマイズしていた。
「それじゃあ、飛びますよ」
誠は影の手で2人を掴み、ブリーフィングルームから飛び上がった。
真っ直ぐ飛べば、芝離宮の上空だ。
「なんだ、綺麗な公園なんだな」
ユリコは、もっと自衛隊基地的な外観を予測していたので、あっけにとられた。
「リスもいるのよ」
「マジか!」
と美鳥は、同い年の少女に語った。
2人はしばらく少女の会話を続けたが、
「誠、右だ!」
ユリコは急に語った。
大門駅より南、三田駅に近い方角にゾンビの臭いがあるという。
誠は、ゆっくり飛行した。
「方角は間違いねぇ!」
ユリコは言い、美鳥は蝶を舞わせた。
誠に匂いを探知する力は無い。
なので、微速で前進するが。
空中に、何か丸いものが浮かび出した。
最初は小鳥かと思ったが、空中を漂う姿は風船のようだ。
だが、大きさは、せいぜい水風船ぐらい。
それが、接近するにつれて、1つから2つに、分裂し、2つが4つに、8つに、とどんどん増えていく。
「ち、さすがにゾンビだけじゃあないとは思ってはいたが、面倒そうなんがでてきたな…」
さっきまでは数十だったのもが、今は数百に増えている。
いずれ、天文学的な数字になるのは、容易に予測できた。
「ヤバいわね、これは…」
美鳥も唸った。
「しまったな、小百合なら倒せたかもしんねーのに」
ユリコは強力な身体強化能力を持っているが、この変則な増殖する影とは、相性がいいとは言えない。
「誠、ともかく可能な限りの風船を落としなさい。
このまま増えていったら、ゾンビどころでは無いわ!」
「は、はい!」
影の手を爆発させる。
それにより影の手は何万という小さな影の手に分裂し、広がっていく。
今までの影の手ならば、力は強かったがスピードが無いため、攻撃の力としてはあまり頼りにならなかったが、真子の切断とアプリの磁力が、影の手に足りなかったものを、全て補った。
超高速で噴き出した無数の影の手は、風船に接触すると、真っ二つに引き裂いていく。
だが…。
影の手が二つに割いた風船は、そのまま倍増して分裂を促進しただけだった。
「しまった!」
一気に分裂を促進された風船は、晴天を薄黒く染めていった。
切断はどうやら、余分に分裂を速めるだけのようだ。
「誠、いたずらに突っ込むな。
一度帰ってこい!」
アクトレス教官は無線通信で誠に呼び掛けていた。
「皆さん、一度戻りましょう」
誠は言うが、美鳥は、
「待って。
これを放置するとヤバいわ。
たぶん、内調の空調にも侵入してくるわよ」
ん、と誠も考えた。
内調本部は核シェルターにもなる頑強な地下施設だったが、その分、空気は空調設備に依存していた。
基本的には換気扇と変わらないが、高性能の酸素ろ過フィルターが付いている。
もしそこに、この風船が詰まった場合、基地は大変なダメージを被ることになる。
「もしかすると、最初から敵は、二段構えの作戦だったのかもしれないですね…」
誠は唸った。
「酸素濃度が下がって我々は行動できなくなったとしても、死人なら何の問題もない…」
「いかにもクズの考えそうなことだぜ!」
ユリコが吐き出すように言った。
「しかし実際…」
誠は唸った。
「どうやってこれを除去すればいいのか、僕にはさっぱり判りません…」
誠は残念そうに語った。




