ゾンビの群れ
「奴ら、船で攻めてきたんだ!」
勇気たちは勢い込むが、
「まぁ、待て。
ここも内調基地だ、随所に実弾兵器や高圧電流は具えている。
まずはそれらが通用するものかどうか、調べてみよう」
永田は言い。
「よし、電流を流せ」
何も無かった舗装道路に鉄柵が地面からせり上がってくる。
電信柱に、変電機に偽装された重機関銃が稼働を始めた。
遺体は、今日新宿で亡くなった一般人のものだ。
だが今は、そんな事を言っている場合ではなくなっていた。
竹芝から押し寄せるゾンビの群れに、容赦なく機関銃が放たれていた。
映画のゾンビは、大抵の実弾などものともしないが、本来は生身の肉の塊であれば、一発の弾丸も肉をもぎ取り、骨を砕き、甚大な被害をもたらすはずだ。
影繰りが影をまとっていても、重機関銃を左右の道路から十字砲火で受ければ、怪我をしないにしても吹き飛ぶような物理的衝撃は回避できない。
銃弾は、ときに音速を超えるスピードで飛ぶものなのだ。
速度とは、力と同義だ。
その衝撃だけで、例え皮膚は裂けなかったとしても、打撲し、骨を砕く。
その重機関銃が、あちこちからゾンビの群れを撫で撃ちにしていった。
ゾンビは、あるいは弾き跳び、あるものはベチャリと地面に押し潰されていく。
だが…。
弾丸の雨が止むと、フラフラと立ち上がり、何事も無かったかのように歩き出した。
「な…、なんだありゃあ…」
川上が、気が抜けたように呟く。
ゾンビは、まるで藁人形で出来ているかのように、涼しい顔で立ちあがると、また前進を始めていた。
「何らかの影の補正があるんだろうね。
死体だろうが、骨を砕き、肉を裂くはずが、影が補うのか、全く動きに支障が見られない…」
アクトレスも唸った。
やがてゾンビたちは、高圧電線の鉄条網に向かってくる。
電流は肉を焼き、細胞組織を破壊するはずだ。
死体なので、内臓を破壊しても問題は無いかもしれないが、肉そのものが焼ければ屍人といえども行動は出来なくなる。
ゾンビたちは真っ直ぐ鉄条網に進み、高圧線に触れた。
バン、とゾンビは弾け、ひっくり返る。
中には、身体から炎を発し、炎上するゾンビもいた。
「おお、効いてるな!」
ユリコが喜ぶが。
ゾンビが、鉄条網に覆いかぶさったまま、燃え上がった。
どうやら、そういう指令がゾンビに下ったものらしい。
ゾンビたちは、次々と鉄条網に覆いかぶさり炎上する。
やがて、その黒く焦げた死体の上を、ゾンビたちは乗り越えた歩き始めた。
「あれ、電気が効かなくなったのか?」
良治が首を傾げる。
「炭化したんでしょう。
炭は電気を通しずらい。
だから、その上を、他のゾンビは歩いていけるんです」
誠が言った。
ゾンビは、まだ続々と前進を続けていた。
「百体どころではないんじゃないかしら」
小百合が呟く。
「たぶん、マッドドクターに強化されたんじゃないでしょうか。
百体と言うのは、過去の情報だったんでしょう」
誠は実際に、脳に直接電極を埋められたカブトを見ていた。
あの時の、背骨に電流が走ったような恐怖は、今も忘れられない。
「地下鉄駅からもゾンビが現れ始めました!」
オペレーターが緊迫した声を出した。
「どこかにドールマスターの人形がいるのなら、それだけでも破壊しないと駄目ですね…」
誠は唸った。
「まー、難しいところだよ、実際は。
この防犯カメラ映像だって、敵は利用できるんだ。
ゾンビマスター、ドールマスター、こいつらを見つけるのは、本当に厄介だ」
と永田は教え、
「ただし、ウチにだって優秀なハッカーは揃っている。
全力でドールマスターを今、探しているところだ。
おそらく、ドールマスターのいる場所にゾンビマスターもいるだろう」
「敵の居場所が判ったら、そっちに影繰りを差し向けるよ!」
アクトレスは叫んだ。
「よし、やったるぜ!」
と勇気も叫ぶが、ユリコが、
「お前らは、基地に待機だよ!」
と勇気を止めた。
「まーおそらく…」
と永田。
「基地に侵入され過ぎなんだよな、ウチの場合。
だから施設防御班も、今回は大切な任務なんだよ」
と小学生に諭した。
誠は考えていた。
このゾンビで、本当に内調を攻めるつもりなんだろうか?
派手な揺動を見せられているんじゃないのか…。
前回は、レディを味方に引き入れ、強引に内調に潜入したAだが、一度マッドドクターは内調設備を内部から丸裸にしたはずだった。
それから何か月も経っており、セキュリティも一新されたはずだが、それはともあれ、鍵を付け替えた、程度のもののような気がする。
敵は、もはや効率的な侵入経路を割り出していて、ゾンビと言う陽動を使うか、ゾンビに紛れて、本命の部隊が潜んでいる、ような気もしていた。
ただし…。
単なる陽動、と決めつけるには、あのゾンビたちが強すぎるのは事実だ。
一旦、要塞の扉が決壊してしまったら、あの銃弾も効かない、高圧電流には進んで身を投げ出していく、遺体の戦士たちは、とんでもない攻城戦力であるには、間違いは無かった。
そして、この作戦は、100パーセントの予知をする、という宮城と言う少年影繰りの描き出した作戦だ、というのも、誠の胸に、重いしこりを残していた。




