別の意味
静香を自宅に送ると、誠は、まだ残っていたタクシー運転手に、
「お願いします…」
と、挨拶した。
運転手も、第一線は引退したとは言え、影繰りであり、今から静香を守る役目を担っていた。
守りの今宮、と言われる護衛のプロフェッショナルなのだ。
誠は、すぐに影を纏って飛び立った。
アプリ、磁力を使えば、内調など一瞬だ。
美鳥たちが集まっているブリィーフィングルームに、誠は落ちた。
「うおっ、誠さんが落ちてきた!」
勇気が驚いた。
「まことぅ!
てめぇ、可愛い彼女をおいてけぼりかよ!」
ユリコが、誠をヘッドロックして、ゴリゴリと頭を締める。
「どのみち、今、彼女と一緒にいれば、彼女が危険に晒されますから」
「チューはしたの?」
涼やかな顔で小百合が誠を覗き込んだ。
「僕らはそんな仲じゃありません!」
叫ぶ誠をガハハと良治が笑って、
「おめー、そういうのタイミングを逃したら、なかなか後からやりずらくなるんだぜ!」
ピアスだらけの良治も、そういう時期があったらしい。
「まー、誠が来てくれてだいぶマシだろう。
影が通用しないんだって?」
アクトレスが確認した。
「透過は通用したんですが、福君の毒や、影の剣や甲冑などは全く通用しませんでした」
誠が話した。
「物質化する影は無効にするのかもしれないな」
と永田が唸る。
「私の蝶も効かない可能性があるわね」
美鳥は冷静に語った。
「たぶん火炎は効くはずだぜ!」
レディが確信の頷きを見せた。
「どうゆう能力なのか判るんですか?」
誠は驚いた。
「おそらく死体には、影を物質化する力そのものが無効なのだろう。
毒が効かなかったのは、おそらくそれが死体だからだ」
と永田が教える。
なるほど。
考えてみれば死体に毒が効かないのは当たり前だった。
それに加えて、影を物質化するような能力が無効とは…。
「影の手も通用しないわけか…」
と、誠は唸った。
「ま、相手はユリ君のお陰でゾンビマスターという影繰りだと判っている。
CIAの資料によると、百体までの死体を操れる特Aクラスの影繰りだが、欠点は自分の見える範囲しか操れないらしい」
永田は言うが、誠は顎を掻いた。
「あのトンネルにゾンビマスターがいた、って事ですか?」
美鳥を操った人形使いのように、トンネルの天井に張り付いていた、と言うのならアリかもきれないが、それだと扉の中までは操れない事になる。
「あの広い穴の全てを見ていた、と言うのは少し無理がある気がします…」
「そこは、何かカラクリを使ったのかもしれないね」
アクトレスは言った。
「カラクリ?」
誠たちが首を傾げると、
「今回、あのドールマスターの動きが、恐竜以後、ほとんど確認されてないだろ。
あれだけの広範囲に無数の人形を操れる奴が、ほとんど姿を見せてないのはかなり不自然だ。
もしかすると、奴はトンネル全体を監視する作業に徹していたのかもしれない」
確かに…。
あの場に殺人人形の百体もあれば、誠たちも無事では済まなかったろう。
ドールマスターがいたことは、恐竜の影から確実であるなら、何らかの仕事をしていた、と考えるのが妥当だった。
「それが全て、これからの内調襲撃のための死体集めだったのか…」
呆然とカブトが呟くが、
「あと、影繰りの死体を集めていたのも、おそらく別の意味があります」
誠が言うと、
「あ、ダンゴムシか!」
と義郎が思い出した。
「なんとも不気味な話だな。
影繰りの死体と、一般人の遺体、なんの違いがあるのか…」
永田の言葉に、誠も頷いた。
別にするからには、何らかの意味はあるはずだった。
が、影繰りも人間であるのは変わらないはずなのだ。
違うとすれば、ただ一点。
影能力を持っている事だった…。
普通に考えれば、つまり影に関する何か、を利用するつもりなのだろうか?
しかし、死者から影能力を引き出せるものだろうか…。
「気をつけなくてはならないが、無駄に考えても影能力は無限にある。
連絡を密に取って、迅速に対応する以外、方法はないよ!」
と、アクトレスは思考を断ち切らせた。
と指令室のオペレーターから、
「周辺の避難は完了しました」
連絡があった。
「さーて、敵さん、どこから攻めて来るか?」
指令室の防犯カメラ映像は、ブリィーフィングルームにも全て来ている。
部屋の一方の壁面は、まるで昆虫の複眼かのように、びっしりと周辺各地が写し出されていた。
ひとっこ一人見えない、まさにゾンビに支配された街のような情景だった。
賑やかな浜松町は、全く無人になっており、車も通行止めになっていた。
無人の街に、竹芝桟橋が近いため、白いカモメとカラスが楽しそうに飛んでいた。
と…。
一艘の小型船が竹芝桟橋にゆっくり近づくと、フェリーのように船尾が開き…。
無数の人影が、思うより、ずっと敏捷に芝離宮に進んできた。




