13必殺技
誠は、長く楽しいはずの春休みを、内調に閉じ込められることになってしまった。
とりあえずやることは…、ひたすらトレーニングである。
プールで泳ぎ、屋内サーキットを走る。
誠の課題は、一つには体力不足ゆえのスタミナ切れ対策。
それが泳ぎやランニングであるらしい。
もう一つが影繰りとしての、透過なら透過のバリエーョン不足。
これはどうやらゲームで補うという。
走り終わってシャワーを浴びた誠は、発想力ゲームをするというトレーニングルームに行った。
そこには、レディやカブト、井口や美鳥まで集まっていた。
「よし、揃ったようだね」
アクトレス教官は、薄く笑っている。
何となく楽しんでいるような気がしてならない。
トレーニングルームは大小50以上の部屋があり、アルファベットと数字で示されていた。
今、誠が降りてきた部屋はE-3であり、卒業式にアクトレス教官にしごかれた部屋はD-6だ。
おそらく誠の予想ではアルファベットは部屋の大きさであり、Aが一番大きく、Eはバスケットボールが出来るほどの部屋、らしい。
Dー6は今の部屋より小さかったが、リングなどの設備のある部屋だった。
Dはデラックスか何かの頭文字で他と区別されているのではないか、と誠は思った。
「ルールは、ほぼバスケットボールで、互いに自陣のリングを守り、敵チームのリングにボールを運ぶ。
ただし、別に細かいバスケットルールは無視してもいい。
そのかわり、自分の影能力を存分に使ってリングを落とせばいいんだ。
この部屋は大抵の事は大丈夫にできている。
爆発しても、火が吹いても、螺旋分銅も使ってもいい。
敵ゴールを落として見せな」
誠は周りを見て、
「しかしメンバーは5人ですが?」
「まずは1オン1だよ」
1対1で戦うらしい。
「まずは美鳥」
美鳥はノースリーブの体にピタッとフィットしたスポーツシャツとスパッツ姿で、小ぶりな胸がナチュラルに強調されている。
いつもは髪は後頭部でまとめられていたが、この日は真っ直ぐに降ろしていた。
癖の無い長髪が、思ったより長く肩の下までサラリと流れていた。
「じゃ、誠、やって見な」
誠は、運動は得意ではない。
12月の戦いでは体に懸命に影の体を這わせて、全て頭でコントロールした戦っていたが、昨日は、なぜか自然と体が動いたような気がしていた。
昨日のようにいくだろうか…。
不安を抱えていたが、
「心配するな、俺が付いてる…」
また、颯太が心で囁いた。
ん、そう言えば、身体が動いた日と、颯太が出現した日は同じ昨日だ…。
何か意味があるのだろうか、と誠は首を傾げた。
アクトレス教官がポンと投げたバスケットボールを、誠は難なく受け止めた。
当人が一番驚いていた。
こういうことが出来なかったのである…。
誠は、ポン、と一回地面にバスケを落として、美鳥の脇を走ろうとする。
と、誠の顔に黒い蝶が襲い掛かる。
美鳥の黒い蝶は、顔に貼り付いたら決して取れない恐るべき殺人兵器だ。
が、誠はボールを片手でドリブルしながら背を丸めて交わし、奥に走った。
「お、やるじゃん!」
カブトが楽しそうに声をかけた。
が、誠の背後を無数の蝶が追いかけ、身体に貼り付こうとする。
誠は影の手を伸ばし、バスケットのリングを掴んで、飛んだ。
蝶を振り切り、誠がボールをゴールに入れた。
「やるわね!」
美鳥は、少し怒ったように言った。
誠は、自分の手を見つめていた。
シャワーを浴びながら、誠はゲームを振り返った。
カブトの地雷源を、足の裏を透過状態にすることで発動させずに走り抜け、シュートしてボールをゴールに投入した。
レディの分銅を透過で交わし、爆発する炎を天井に伸ばした影の手で回避し、ダンクシュート。
井口のカラスをしなやかに避けて、ロングシュートを打つが、井口のカラスがボールを奪う。
空中戦でカラスからボールを奪おうとしたが、さすがに三羽のカラスのコンビネーションは崩せずゴールを奪われた。
嘘みたいに体が動いた。
気持ちが悪いほどだ…。
「ほーら、俺ちゃん、凄いだろ!」
松崎颯太がカカと笑うが、誠は疑問を呈する。
「でも、颯太お前、どちらかと言ったら体育は苦手だっただろ…?」
誠も颯太も、そう変わらないほど運動神経は無かったはずなのだ…。
「馬鹿だな、ブラザー。
俺っち精神体なのよ。
いつも、お空を飛んで遊んでるのさ。
その俺が、お前の影を操っているんだ、あのくらいは当たり前、お前の体が付いて来さえしたら、もっと凄い動きだってこなせるんだよ!」
なるほど。
体を持たないものの動きだから、あんなに軽々と動けている、って訳なのか…?
釈然と橋無いものの、良くなったのだから、別に不満は無かった。
誠は至って現実主義者だった。
誠の課題、三つめは、例の、猫になれ、というアクトレス教官の謎の言葉だった。
誠は、個室で教官と二人、1時間ほどのトレーニングをした。
ほぼ柔軟運動と言ってもいいトレーニングだ。
「インドの武術カパリヤッドには色々な流派があるんだけどね。
その起源はヨーガとも共通しているのさ。
つまり、これからあんたが習うのはほかの奴が知らない武術だ。
判るかい。
ボクシングの技術は多くの者が知っているから、屈んで下からパンチを撃ったらアッパーカットだと誰もが判る。
だが、これから教える技術ならば、そこから頭を狙う蹴り技が出せるのさ。
誰も知らない。
だから強い。
必殺技って言うのは、つまり、相手が知らない技の事だ。
知られたら、ああ対処しようとか、こう逃げて五分に戻そう、とか考えられちまう。
そういう世界で相手を上回るのは、とんでもなく大変だし、しかも、ほとんど運だ。
だが、知らない技は、面白いほど決まるのさ。
気を付けるのは、さっき言ったように、これは相手が知らないからこそ必殺技なんだから、迂闊に見せちゃ駄目だって事だ。
見せた相手は、必ず殺せ。
あんたなら簡単だろ」
言われながら、誠は徐々に理解しつつあった。
なるほど、僕の体は力は強くないが柔軟なので、この武術は合うみたいだ…。
第1の技、身を屈めてからの蹴り技、鵜撃、は、誠は1時間で物にしていた。




