12中東のパーティ
「あの事件では蒼井聡と、武装犯3人を逮捕しているが、完全黙秘を貫かれている。
青山が心を覗いたところ中東のパーティと言う言葉だけが聞こえたそうだが、それだけじゃ何も判らない。
お手上げさ」
中東のパーティ?
誠は考えてみるが、中東と言っても範囲が広すぎる。
アジア、でも欧米、でも同じだが、それだけでは何のことだかさっぱり判らない。
「んー、ちょっと待って。
聡が何か言ってたような…」
カブトが頭を押さえた。
「おいカブト。
お前は傷が治ったばっかりなんだから、無理をしなくていいんだよ」
レディは気遣うが、カブトは。
「確かシリアに、アリとか言う男がいて…」
カブトの中で、何かの配線が繋がったようだった。
「その男を予言者に仕立て上げる…、そんなパーティだった気がする…」
「予言者?
ノストラダムスみたいな?」
誠が聞くと、
「ううん。
なんかもっと…」
カブトは旨く言葉に出来ないようだが、アクトレスは言った。
「あっちの方で予言者と言うのは、まぁキリスト教で言えば聖人みたいなものさ。
日本で言えば教祖様に近いかね。
大変尊敬されるし、民衆の信頼を得れば自分の派閥を作って、まぁ王国みたいにできる。
そもそもコーランが法律、と言うようなところだからね。
本物の預言者だ、とでもいう事になったら…、大変な事態に転がりかねないね」
「それを影繰りが裏でサポートする、って訳か。
なるほどな」
永田が煙を吐き出しながら唸った。
最近は指令室の一隅にアクリル板が張られ、そこに永田の席は移されていた。
横で空気清浄機が唸りを上げている。
アクトレスは唸り、
「日本でどうこう言える話じゃなくなってるね。
CIAにでも回した方が良いんだが、今はそれも…」
他の情報機関に嘴を突っ込まれると、カブトの身柄が危うくなってしまう。
それはレディも、またカブトの両親である内調の職員も望んではいなかった。
ダンサーチームなど、海外で働く内調の職員も少なからずいるのだが、それは大抵はCIAへの協力、と言う形をとっていた。
世界規模の諜報機関を維持しうる国家は、現代では、ほぼアメリカ、ロシア、中国に限られる。
むろん社会主義国家などが何とか情報を得ようとして近隣の他国に諜報機関を設立することはあったが、機能のほどはたかが知れていた。
諜報機関と言うものは、他国に職員を派遣すればすぐ成果を上げられる、という性質のものではないのだ。
そこから何十年がかりで少しづつ根を張り、枝を伸ばしていくものだ。
影繰りは主に戦闘員だが、諜報機関の主役は普通の生活をしながらコツコツと機密を探る一般人だ。
彼らはその国に長く暮らし、水に馴染み、多くの友を得、すっかりその国の人間だ、と周りも考えるようになって初めて諜報活動が機能する、とも言えた。
片言の言葉でいい加減に近づいたとしても、とても信頼できる情報などは得られはしない。
なので特定の国の内情を探りたい、と言う場合を除けば、日本における海外の機密情報は、ほぼCIAとアメリカ軍からもたらされている。
が、彼らは基本的に米国の利害で動いており、日本に同情するような心の動きは一切認められない。
だが、その分、彼らの日本での権限は強く、永田をはじめとする内調側としては、あまり身の内に連中を踏み込ませたくない、と言うのが実情だった。
特に12月のムーンライト号が東京湾から隅田川を遡上した事件などは、日本側も未だアメリカに秘匿している情報は幾つもある。
その一つがカブトの事であり、他にも電磁波爆弾を保管している事、マッドドクターを拘束していることなどがある。
マッドドクターは、元米軍所属の影繰りであり、CIAがその事を知れば身柄の保護を言い出しかねない。
だが、マッドドクターの体を調べられると、彼の脳が人間の手によって握り潰されているのが判明する。
誠の存在自体は、おおよそCIA規模の諜報機関であれば認知している、と考えるほうが順当ではあったが、脳を握潰ぶす影繰りがいる、とまではたぶん理解していないのだ。
吉岡医師など、身体内部の破壊が可能な影繰りはいるが、誠の場合は影の手を使えば射程は数十メートルであり、移動スピードも驚異的だ。
アクトレスの言うように、原子炉を破壊し、メルトダウン前に逃げ帰れる影繰り、と思われる可能性もあった。
「まあ、今のところは誠はしばらく基地から動けない。
親御さんにはこっちから言っておくから、いいね」
「え、一度帰る、とかも駄目なんですか?」
「何がいるんだい?」
現実には趣味の地下鉄のトンネル資料とか書物だったが、なぜか恥じて誠は言えなかった。
「着替えとか…、です」
カブトは喜んで、
「判るよ誠。
色々読む本とかだろ」
ケケケと笑ったが、アクトレスは大真面目に、
「服は買ってやる。
それも、よく似あってるよ」
カブトとレディは笑いをこらえていた。
「そんな訳だから、川上を2人は迎えに行ってやってくれ」
アクトレスは厳粛に命じた。




