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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
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乗っ取り

静香は、ケーキに夢中のようだ。

何ページもあるケーキメニューから、パンケーキ、パフェの辺りまで熱心に見返している。


タコは、ただ静香の首筋で揺れているだけだ。

誠に、顔の一部と足1本が、わざと見えるように存在している。


誠が気がついた事は、もう判っているはずだった。

あとは…。


どういう方法で人質を使うのか、だ。


判りやすくは、静香を抑えているのだから大人しく殺されろ、と脅すとか、或いは、タコの能力で何かをするか、だった。


「ねぇ、誠君。

これ美味しそうじゃない?」


それは、艶やかに光るピンクの何かでコーティングされた、まるで工業製品のような輝きを放つケーキだった。


「味が想像できないな」


誠も覗き込んだ言った。


「ムースケーキのようよ」


誠は、美味しそうだ、とあいずちを打ったが。


敵がどう出るのか、判断がつかない。


もしタコに聴覚や視覚があるのなら、別に射程内にいさえすれば、スマホを見るふりをしながらいくらでもコントロールが出来そうだ。

問題は、タコに何ができるのか、と、どう敵本体を見つけるか、だ。


それには、静香の微妙な変化を感じるしか、今のところやりようは無いのかもしれなかった。


「そうだなぁ、僕はパンケーキにしようかな?」


と、あえて数ページ先のパンケーキをめくると、静香は、


「それだとケーキセットが使えなくなっちゃうのよ」


と教えてくれた。


ケーキと好きな飲み物を合わせるのなら、ケーキセットの方がおよそ200円ほど安くなるようだ。


今のところ、静香の様子に変化はない。

敵が、ただ静香を、誠の目の前でむごたらしく殺したい、のでなければ、何らかのメッセージを誠に届けるはずだったが。


「このアーモンドのケーキも…」


と、パウンドケーキを語っていた静香が、不意に。


「…小田切誠。

判っていると思うが、この娘は俺が乗っ取っている。

返して欲しければ、今から足元から這い上ってくるタコを、受け入れるのだ」


声は静香だったが、全く聞いたことのない喋り癖がある。

別人の、そして男性の声だと思われた。


「乗っ取るのか?」


誠が聞くと、


「そうだ。

お前は素晴らしい成果を上げた。

その成果は、俺が乗っ取る」


おそらく、タコは人間の精神に侵入し、人のコントロールを可能にするようだ。

簡単に思えるが、実際は相当に難しい技術を必要とするような影に思えた。


中距離の射程でも、人そのものを、全て乗っ取るなど無理なのではないか…?


確かアクトレス教官の弟さんが同じような能力だったはずであり、最後は乗っ取ったつもりの人に銃で撃たれた、と言うようなことを聞いたことがあった。


「…とっても美味しそうなのよねぇ。

誠君、だから半分ずつシェアしましょう」


気づいていない…!


静香ちゃんは、影繰りでは無いからか、今、身体を乗っ取られたことを、全く覚えていないようだ。


意識ごと、分断するように人の体を乗っ取るものらしい。

だとすれば、静香ちゃんには、相手の情報は何も残されないことになる。

完全犯罪、な訳だ。


近くにいるのかもしれない…。


誠は、考えを改めた。


とても何十メートルも離れた場所からコントロールしているとは、思えなかった。

少なくとも、誠と静香の状況が判る位置にはいるはずだ。


むろんタコがそういう情報をもたらす、とも考えられるが、喫茶店には他の客もおり、もしかしたらアクシデントが起こる可能性も否定できない。


もし隣の客に、静香の話が突然に変わった瞬間を見られたら、全ては台無しになるかもしれないのだ。


それを考えると、むしろ敵はカフェの中、と考える方が自然かもしれない。


ある程遠距隔でも、静香をカフェに誘導するぐらいの精神コントロールはでき、そして自分の巣穴とも言うべきカフェに誘導したら、本格的な攻撃を開始する、と言う方が自然に思える。


誠は、颯太と真子をカフェに呼んだ。


窓際の席に初老の男性が一人、文庫本を開いている。


誠たちの横のテーブルには、コンサート目当てだったらしい年齢差のある二人の女性が、親しげに話を弾ませていた。

親子?

SNSで知り合った友達?

少し読めない2人連れだ。


カウンター席に女性がスマホを片手に時間を潰してい、その後ろの観葉借物の脇に、少し年齢のいったカップルらしい2人が、静かな会話を楽しんでいた。


1人、の男と女が一番クサいが、二人連れ、も除外は出来ない気がする。

特に、人格の乗っ取り、などという高等で繊細な影を、誰のサポートも受けずにこなせるのか、が疑問だ。


乗っ取りをしているうちは、おそらくかなり無防備になるはずだからだ。


アクトレス教官が弟に接近戦の戦い方を教えなかった筈は無い。

普段ならば、分厚い近接戦闘用の影をまとえたのではないか?

だが、乗っ取りに際しては、銃で簡単に撃たれるほど無防備になるのだ。


そして…。


「あたし、このアプリコットのムースケーキにしようかしら。

お勧め、って書いてあるし」


敵は、乗っ取りは最小限にとどめている。


おそらく、かなりの負担になるのだ。


だが彼は、これから誠の体を完璧に乗っ取り、しかも異変が気付かれない程度には静香の精神もコントロールしなければならない。


もしウェイトレスが異変に気がついた、なんてことになったら台無しであり、そこで誠の意識が戻れば、たぶん報復されるのは当然考えているはずなのだ。


隣にボディガードがいる、と考える方が自然、かもしれなかった。


そして、このカフェで、2人連れの男は、1人しかいない…。

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