神
やるしか無いんだ!
誠は、心の中で叫んだ。
殺すか、殺されるか!
空は、そんな場所だった。
誠の背後に、まるでUFOかのように、空を自在に飛行できるスカイウォーカーが迫っていた。
対して誠は、無数の影の手を集めて、翼を作り、風を受けて飛んでいる。
片翼を折れば、その方向に曲がれる。
両翼を折れば、落ちる。
その程度に、飛行をしていた。
音速の悪魔とは、全く能力が劣っている。
音速の悪魔は、勝利を確信し、突進する速度を上げていた。
誠は、最後にすがった。
自分の能力にすがった。
あの、赤い服の女に掴まりそうになり、石の中を透過して逃げた時、眠すぎて透過が出来なくなった。
その時誠は、自分の周りの物質を透過するのをあきらめ、己の体を透過した。
結果、誠は気体になったように岩の中を滑るように脱出できた。
あれを、もう一度したい!
いや、この状況では、するしかなかった。
体の向きを変える事さえ、自由には出来ないのだ。
今も誠は、緩やかに滑空しながら、落ち続けているだけだからだ。
対してスカイウォーカーは、歩くように空を動ける。
のろまな誠の背中にナイフを刺すことなど、蠅を捕まえるより簡単だ。
スカイウォーカーは、練習と称し、良く蠅を捕まえた。
「あれはなかなか素早く、優秀な性能を持つ飛行昆虫なのだよ」
よく、マッドドクターに話したものだ。
蠅以下か、蠅以上か、は、だから空を飛ぶ場合の一種の基準だと、スカイウォーカーは考える。
目の前の小僧は、当然以下だ。
ただノロノロと、空気に乗って滑っているに過ぎない。
スカイウォーカーは、加速し、そして小僧の、生意気な翼の間にナイフを突き立てた。
が…。
誠は透過し、そのまま、己の影の中に吸い込まれていった。
透過と、影の手は、誠の持つ2つの力だった。
二つ力を持つ影繰りは少ないと言われていたが、別にレディさんの分銅と火炎、のように、分かちがたい形で同居している事も多い。
だが、今まで、誠の二つの力は、分離して別の力として存在していた。
が。
誠はツルン、と影の中に、己を滑り込ませていた。
ナイフが、虚空を切った。
「なに!」
スカイウォーカーは、叫んでいた。
「何故、それをお前が出来る!」
あれは、テレポートと言う高度な能力だった。
天才的な力だ。
むろん透過も、中々大したものだが、圧倒的に動きが少ない。
その場でものを透過するだけだ。
ただ止まっているだけの、石像のような能力なのだ。
むろん、影の手を伸ばして、飛行する。
だが、それは蝶よりも遅い、原始的な飛行に過ぎない。
だから私が負ける訳は無かったのに!
しかし、小僧はスカイウォーカーにへばりつき、チョコマカと攻撃を与え続けた。
何という事は無い、果物ナイフで刺すような攻撃だ。
だが小僧は、まだ技を隠していた。
能力を解除する、という厄介な力だ。
してやられた。
奴にGを喰らわせてやるつもりが、逆にスカイウォーカーが死にかけた。
だが…。
空中でスカイウォーカーが負けることは有り得ない!
空は、私の王国なのだ。
頓馬な小僧に、それを判らしてやる、思い知らせてやるつもりだったのに!
小僧が、目の前から消え去った。
「終わりです!
スカイウォーカー。
あなたは、この空で死ぬ!」
小僧が、スカイウォーカーの背後を取っていた。
馬鹿な!
驚愕するスカイウォーカーの頭に、誠は手を差し出した。
そのまま、透過して脳を砕く。
マッドドクターは、前頭葉を砕いたため、何故か若返ってしまったが、今度は完璧に息の根を止める。
後頭脳から小脳、脳幹。
生きるために必要な体の動きをコントロールする、生命維持の根幹部分だ。
そこを、誠の指が、グシャリと潰した。
一瞬、スカイウォーカーは白目を剥くと、こっ…、と小さく喉を鳴らし、そのまま落下した。
無数の高層ビルが立ち並ぶ新宿のオフィス街に、スカイウォーカーは生肉として落下し、十字架のように広がるクロスロードの真ん中に、凄い音を立てて、1メートルの穴をあけた。
「やった!
誠が勝ったぜ!」
レディは、思わず飛び上がっていた。
小田切誠は、およそ千メートルの上空で、漆黒の翼を広げて滑空している。
その姿は、黒翼の天使のようだ。
「あいつ、まさか、こんなところでレベルアップするとはな」
ユリコも、あの、男か女かとちらにもなってしまう小柄な少年が、ここまでの成長を見せるとは思わなかった。
(神が、宿るが…)
レディの中で、ホムンクロスがボソリと喋った。
(ん、どういうことだ?)
(マッドドクターと同じように、スカイウォーカーは神の力をもった影繰りが。
その神の名はイカロス。
それを小僧は喰ったが!)
(じゃあ、神を二体、持つことになるのか…)
さすがのレディも驚いたが。
(神は、人格では無いが。
小僧の体の中で、合体して、もっと大きな神になるが。
ヒュノプスとイカロス、1と1が合わさって2の力の神になるが!)
ふーん、とレディは誠を見上げ、ニタリと微笑んだ。
(俺の目論見通りだぜ…)




